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「フェティシズム」




後姿・横顔、そして向かい合って・・・
俺は堪らない気持ちを押し留める事に必死だ。いつでも。
こんなに近くで穴が開きそうなほど見ている。


就職には事実上失敗した。
やっとの思いで入った会社も、GW明けには辞めていた。
嫌な上司・先輩だけしかいない職場に耐えられなかっただけ。
家族や友人の呆れ顔から逃れる為にも、俺はすぐにバイトを始めた。
自分の家から少し遠く不便で、普段は使う事の無い逆方向の駅近くにある、
“少し寂れた”レンタルビデオ店で。
自分の家から近い所に大手のレンタルビデオ店がある。アルバイト募集も出ている。
しかしそこには行かなかった。行けなかった・・・
近所の人や同級生に現状を知られたくはなかったから。
きっと家族もそれを願っていただろうし。

もう少しで半年になる。
大手と違って店内は薄暗く、置いてある商品も古くなった物が目立つ。
でも、客数が少ない事や比較的自由に働ける事が俺にはいい。勿論その分給料は安いが。
本当は深夜の担当のが給料が良く、そちらをやりたかったが、
普通に“昼間働いて欲しい”と両親の強い希望があったので、俺は日中のシフトを選んだ。
日中はアルバイトよりもパートさんが多く、俺は重宝された。
棚替えや重い物を運んだり、そして避ける事の出来ないアダルトコーナーの整理等、
今では俺専用のような仕事になっているものもあるし・・・

まだ若い俺を、パートさんたちはからかって来る。
俺を馬鹿にするおばさん、仕事を押し付けて来るおばさん、シカトするおばさん。
それでも俺がこの店で続いているのは、ただ一つ、決定的な理由がある。
最初は今まで知らなかった・感じた事の無かったそれに分からなかった。
年上など興味が無かったし、別にエロい格好をしているわけでもないし・・・
俺はアダルトコーナーへのDVDの返品作業の時に“それ”に気が付いた。
そのDVDのタイトルは“フェチズムの世界”だったと思う。
言葉も気になったが、そのパッケージの女性の顔アップの写真。そして、
鼻や唇が大きくアップになった写真。
そこで気が付いた。自分が一緒に働いているパートさんの一人をその対象に見ている事に。

絵美子さん。確か36才だと言っていたと思う。
思いきり短い真っ黒な黒髪はベリーショート。それもワックスが効いて光っている。
くっきりした目鼻立ち。目・鼻・口元・歯並び、どれも欠点がなく、
艶々で輝いていて、そしてそれぞれのパーツが際立っていて。
髪形同様、服装や行動も元気よく“キャリアウーマン”や“女性上司”な感じ。
俺はその後ろ姿や横顔、そして口元・鼻、それを食い入るように見てしまう。
もちろん本人には気付かれない様に。
胸や尻、裸の事など関係なく絵美子さんをネタにしてしまう日も多い。
シャツから漏れる首元・項のいやらしさ。
太っていないのに、顔や口周りが豊満に見える絵美子・・・
俺は自分より一回り以上離れたその女に夢中になった。

しかし現実はほとんど接点が無く、相手も俺に興味など無さそうだった。
他のパートさんとはふざけ合うが、俺に何かを言って来る事はない。
俺もまた、他のパートさんより距離が縮められない。
そんな俺は絵美子にすれ違う度に自分の血が踊るのを感じていた。
“この女を手に入れたい”、そう強く思うようになった。
でも同時に、この女は俺になど興味を持たないだろうとの諦めも感じてしまう。
俺はレジ付近や事務所に自分が一人になった時、色々と絵美子を漁った。
履歴書の住所をメモしたり、絵美子の物を触ったり・・・
そしてある時、俺はパソコンで貸出し一覧のページを探していた。
店に勤務する者は格安でレンタル出来るので、みんな沢山レンタルしている。
そして主婦パートも例外なく“職権乱用”でアダルト系にも手を出している。
俺は絵美子のレンタル履歴をチェックした。

他の露骨にアダルトジャンルを借りている主婦パートとは違い、絵美子は浅い。
普通の映画が多いし、他もドラマやスポーツだ。
しかしところどころ“官能作品”の匂いがするタイトルがちらつく。
俺はその商品を探す。パッケージ裏面の解説を読み、それがエロ系なら借りて見た。
いくつか見たが、外に伝わって来る絵美子の活発な感じとは違い、
どちらかと言うと、甘く優しいエロ系のタッチが多かった。
俺はそれも重ねて想像しながら絵美子の顔を見て働いていた。
家にも行った。もちろん絵美子に気付かれない様に。
ベランダに干してある洗濯物に紛れる絵美子の物であろう下着類。
いつも目の前で見ている絵美子の想像を裏切らず、シンプルな物が多い。
俺は店にいる絵美子の服の中にそれを想像している。


ある時休憩室のテーブルの上にパートさんたちの写真が置かれていた。
この休憩室で仲間たちで撮ったものや個人で写っているものもあった。
俺はその中から絵美子の写真を数枚抜いた。
綺麗に写っていて、俺が大好きな絵美子の顔がアップで写っている。
個々のパーツは光り輝き、俺はパソコンにもその画像を取り込んだ。
俺はもう気持ちが抑えられなくなり、望遠カメラやビデオカメラを買った。
事務所にいる絵美子を隠し撮りしたり、絵美子の家の洗濯物を盗撮したり・・・
日に日にその夢中さは増して行った。
事務所では絵美子が座った後の生温かい椅子の表面を感じたり、
誰もいない時には絵美子のカップを口につけたりもした。
絵美子のロッカーも開けた。もうその香りだけで濡れる。

日に日に増えて行く・・・
笑った時に見える白く輝く大きな歯が綺麗な口元。
くっきりして、見ているだけで堪らなくなる絵美子の鼻。
若い女にはない人妻だから似合う刈り込んだ黒く光る髪、そして肌のツヤ。
どの写真からも絵美子の匂いがぷんぷんする。
絵美子がしゃがんで棚の整理をしている時など、俺は下からスマホを入れた。
薄いピンクとベージュの中間の様な光る生地のパンティが写っていた。
大きく屈んで開いた胸元からもそれと同じ生地のブラが見えた。
俺は棚の高い所の商品を取るふりをして、絵美子の香りを嗅いだ。
何ていやらしい顔をしているのだろう・・・ 絵美子。



俺はどうにもならない気持ちで絵美子を見ている。
パソコンの中は絵美子で埋め尽くされている。
俺を楽にしてくれ、絵美子・・・





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