「狙われたプリンセス」
人の人生なんてものは、生まれた時点できっと決まっているのかもしれない。
容姿なんてものもその代表だろう。
例え鳥に生まれたとしても、羽が無ければ空を飛ぶ鳥にはなれない。
身分、家柄、それも大きく人生を左右するだろう。
“プリンセス”
そんな呼ばれ方をする人生など凡人には無縁の世界だ。
休む場所・食べる事・着る服に困る事なく生きて行ける景色。
それもどれもが洗練された高い次元で用意されている。
当たり前のようにそんな場所に立っている人、そして、そんな人を羨み妬む人がいる。
彼ら彼女らにもそれなりの考え方もあるのだろう。
ならば・・・
高い場所に立つ事は視線を集める。狙われてしまうのもまた、それも人生なのか・・・
選ばれた人だけが許される、限られた世界に身を置くその女性。
永遠と続く血筋、浮世離れした住環境、どれもこれも比類なものばかり。
それでも形だけ・表向き、“大衆を理解する事”を学ぶ為なのか、
少しばかり裕福で気位が高いだけの凡人に混じって学生生活を送って。
“お嬢様なのに感じがいい” “品が良いだけでなく実力を兼ね備えている”
彼女を取り巻く言葉・言葉・言葉、どれも褒め称えるものばかりだ。
そう、だから尚更反感を抱く人間が出て来る事、むしろ普通にも思える。
どこまでが本当の評価なのかは知る術もないが、成績は常に上位。
家族代々の伝統で選んだ部活（剣道部）では部長（女子）を任されている。
成績も県大会で１６本に入るレベルではある、剣道の実力も嘘ではないのだろう。
八宮麻衣子。由緒正しい家柄、相変わらず“古風な”名前を好んで使うものだ。
代々続く歴史、そして彼女が広告塔の役目をしている事もあり、
現在、剣道部部員は４８名。内、女子部員が３３名を占める。
彼女にもちゃんと“憧れるだけの理由”があるのだろう。
少し童顔だが端整な顔立ち。まるで少女のままのようなショートカットも品を感じさせる。
洗い晒しのようでありながら、でも、真っ黒な黒髪は艶やかだ。
少し小さい歯が並ぶ歯並びの良い口元を見せて笑う彼女には男子ファンも多い。
“色気”とか“セクシー”なんて汚れた言葉は似合わない、本物のヒロインでもある。
顧問・ＯＢに対してもしっかりしたハキハキした言葉、そして礼を忘れない。
彼女に憧れる部員、特に彼女を崇拝する後輩・下級生たちがそこにいる時、
その場所には美しい輪が広がっている。
輝き、時に潤ったような目で数十の瞳が１点に集まっている景色。
成績・信頼・育成、どこにも曇りのない世界に思えるのだが・・・
人間の世界はそんなに簡単ではない。
表がある。それも最高に美しい清らかな世界がそこに集まっている。
だから、だからこそ黒く滞った闇の世界、裏の世界もまた大きく膨らんでしまうのだ。
麻衣子の学ぶ空間、そこに一緒に存在出来ること自体が尊い事なのだが、
中にはそこに馴染めず、また、本来そこにいるべきでない人間も混じってしまう。
親の失敗とともに学びの空間を後にする者。部活で結果が残せずに諦めてしまう者。
清く輝かしい光を嫌い、そこから去って行く者も。
学びの場・部活動、部員・後輩との関係、どれもが上手く行っていた。
きっと麻衣子には“問題”など感じられていなかったはずだ。
しかし・・・
実はすでに黒く厚い雲は麻衣子の周囲を覆っていたのだ。
副部長を始め、部のメインメンバーの女子たちは次々に黒い罠の餌食になっており・・・
いつしか敵は周りを侵食し、一面を黒で覆っていた。
まるでオセロゲームのように、いや、ゲームのルールを越えて、
すでに最後の一つ、中央に一つだけ白を、それも人一倍大きく輝く白一枚、
それだけを残して一面真っ黒の世界になっている。
何が起きているのか。
退部させられた女子部員が中心となり、麻衣子の人気を妬む同級生、
成績の事で麻衣子をよく思っていないクラスメイト、麻衣子の存在を疎む学校関係者、
さらに、そんな女子部員の彼氏や不良男子学生まで、それらが大きな力となって・・・
麻衣子の親友や側近は次々と悪戯され、そして弱みを握られ、
さらに今度は仲間になる事を強要され、それは下級生・後輩部員にまで拡大して。
清らかな世界とは別世界の、恐ろしい荒廃した世界が蔓延していた。
麻衣子の親友であり副部長の女の子まで、既に酷い目にあっていた。
部活帰りに停学中の元部員の女子学生に呼び出されて、廃墟に連れ込まれ、
複数の男たちにレイプされた。そして全裸にされて恥ずかしい写真・動画まで撮られた。
現状、もう麻衣子の周りはすべて黒に塗り替えられ、今は最後の一人を残すのみ。
ついに副部長の彼女が塗り替えられた事、それは大きく、
今、光り輝き、誰もが揺らぐ事・変色など考えなかったその光白が・・・
強い心、そして誰よりも麻衣子を支えて来た副部長の彼女。
けれど、複数の男たちに弄ばれたショック、そして何より恥ずかしい写真、
逆らう事は出来ない。もう、麻衣子を守る事も出来ない。
「麻衣子、今日残ってくれる？ 相談があるんだ。練習後、そのままいて！」
副部長の女の子が麻衣子に言った言葉。
沈んだ表情。麻衣子にはどう映っていたのだろう。
プリンセスは孤独だ。親友もいれば副部長なんて一番の仲良しでもある。
けれど麻衣子はプリンセス。どんなに久しくても気遣いもあれば配慮もある。
一番大切なところで“言い難い距離感”が最後まで拭えなかった。
「麻衣子は特別な存在なんだから・・・」 「麻衣子先輩は特別だから・・・」
何人もの、それも麻衣子を愛おしく思う女の子たちが口走った言葉。
今となれば、そんな気遣いがむしろ事を大きくし、そして膨らませてしまった。
レイプされたショックで退部・退学して行った生徒たち。
自分もそれに加担してしまい、後悔があるからこそ抜けられなくなってしまった生徒。
何とか自分のところで引き留めようと我慢した事が裏目に出て、
自分自身が救われない程の苦しみを背負ってしまった生徒。
いつしか麻衣子だけが何も知らないまま一人になっていた。
最後まで守られる事と裏腹、すぐ近くまで一面覆われてしまうまで気付けないなんて・・・
夕方６時近く、学内でも一番奥まった場所にある剣道部の練習場。
静まり返って、元々普通に薄気味悪い場所だが、今は麻衣子と副部長の二人きり。
「どうした？ 何悩んでるの？！ 元気ないから心配になった・・・」
麻衣子らしい、“汚れ”に遠いからこその何の疑いもない声掛けだった。
次々と人生で一番恥ずかしく苦しい目に遭った女子たちが笑みを無くして行く中、
麻衣子はそれに気が付かずにいたのだ。副部長たちが麻衣子を守った事も大きいが・・・
でも、それでは部長失格、そして親友としても先輩としても失格だ。
きっと、自分も大変な苦しみの中にいる副部長には渇いた言葉に聞こえたかもしれない。
副部長が少し黙ったのも、そんな麻衣子に対する諦め、そして情けなさなのかも。
沈黙の時間、それはそんなに長い時間ではない。
なぜなら副部長が言葉を発する前に、もう後方の扉から次々に男たちが入って来たから。
その中には退部したはずの、退学したはずの女子学生も混じっている。
そして、見た事もない、同じ学び舎に存在するはずもないガラの悪い男たちまで。
彼らは数人の剣道部のメインメンバーを従わせるように連れて来た。
腕を引かれ背中を押され、彼女たちは下を向き明らかに言いなりだ。
その異様な雰囲気に麻衣子もたまらず言葉を、
「何なの？！ ・・・ どういう・・・ことっ？ ・・・ えっ？ 何？」
練習後、後輩たちの稽古の片付けを見守ったまま残った麻衣子。
麻衣子は道着のままだ。
面だけは外していたものの、剣道着・袴、胴・垂れもつけたままだし、
最後まで後輩に簡単な指導もしていた為、まだ小手すら外していなかった。
もちろん汗を拭く間もなく、ショートカットの髪はボサボサ、濡れ髪の状態。
顔・首元は汗光りしていて、“今タオルで顔・首を拭きたい”そんな瞬間そのもの。
そんな姿を当たり前に晒しているのは仲間たち（部員たち）の前だから。
いきなり部員以外、それも外部の知らない人間まで入って来たなら動揺する。
それも大半が男性であったなら尚更だ。
プリンセスは品格を重んじる。
スポーツや競技のシーンでも乱れず恥ずかしい姿は見せない。
なのに、部室と言う自分を晒している場所に土足で入り込まれた。
今は剣道をしていない時間、激しく活動し汗だくの剣道着を着けたままのその姿、
それを冷めた（剣道に無縁の）複数の目で囲まれた。
恥ずかしい。まるで剥き出しにされているような視線に感じてしまっていたのだ。
一度止まったはずの汗が再び噴き出してくる。
「どういう事？ ねぇ？！！」
緊張からなのか不安からなのか、いつもなら冷静で感じの良い麻衣子が、
詰め寄るような勢いで俯いたままの副部長を問いただす。
しかし返事がない。
それどころか、先に周囲を囲んでいた男女から薄笑いの声が、表情が。
そして遅れて、
「ごめん・・・ ごめんなさいっ。 麻衣子・・・ 許して・・・」
副部長は床に崩れ落ちるように跪いた。
「何ぃ？ 何なの？！ ねぇ、どういう事なの？ 教えてよぉ！！」
麻衣子は副部長に言い寄るが、もう副部長に反応は無かった。
「この女が八宮麻衣子か？ 結構カワイイな。 なんか清純って感じだな」
誰が言ったのか、そんな言葉が、でもはっきり麻衣子には聞こえていた。
例え世間知らずでも、今の状況が自分にとって危機的状況なのは動物的本能で理解できる。
練習場の中央にいた麻衣子も、一歩二歩、自然に少しずつ後ろに下がって行く。
下がる者を追いたくなるのもまた動物の本能、
草食動物を囲む肉食獣のような、それも肉食獣の数が多過ぎる圧倒的な場面だ。
既に集まっている中央、そして少し外側に回った男たちが両側から麻衣子に近づく。
「何ですか？！ やめて下さい、来ないで下さい！！」
もう下がる場所はない。練習メニューを表示する為のボードがある壁にまで来てしまった。
「ねぇ？ その剣道着、自分で脱ぐのがいい？ それともみんなに脱がせてもらいたい？」
最低の表情で笑いながら近づく男と麻衣子は３メートルの距離で向かい合った。
「嫌っ、嫌っっ、、 ぜったい嫌ぁ！！ 来ないでっ、来ないで下さい！」
麻衣子はとっさにすぐ横、床にあった竹刀を手にとる。
道着を着ている、そして竹刀を持った。この場所、そう、いつもの剣士の麻衣子の姿。
「へぇ～ さすが剣道部の部長さん、カッコ良いねぇ～ 強そうだし」
「おぉぉ、見てぇよ。八宮麻衣子の本気の姿見せてもらおうぜ！！」
冷やかし口調の男たちは盛り上がる。
普通なら女一人、大勢の男たちに囲まれ角に追い込まれた状態、
何も出来ずにただ泣いて蹲るか、それとも悲鳴を上げ助けを求めるかの場面だ。
麻衣子は竹刀を構えている。けれど・・・ 明らかに怯えているし震えている。
男たちも壁側にあった竹刀をそれぞれ手に取った。
その中に剣道部の男子はいない。前に出て来ている男たちはガラの悪い男ばかり。
「ほら、来いよ！ 八宮のお嬢さん、剣道の腕前見せてよ！！ 見せてみろよ！」
「誰も助けてくれないぞ。 県大会の成績も親の力で獲得したのか？」
麻衣子が前へ踏み出す前に一番近くにいた男が竹刀で突くような動作をした。
しかし当然だろう、その竹刀は一瞬で吹き飛ばされた。
“おぉ～！！！”
感動したような、でもバカにしているような歓声がそこに上がる。
真ん中の一人の竹刀を、竹刀を弾き飛ばす形で吹き飛ばしたが、もう両側に竹刀が近づく。
麻衣子は両側から近づく竹刀の先端を、視線だけ動かしながら睨み付けている。
そして右・左、やや時間差で突き出されたが見事にそれを弾く事が出来た。
今度は真剣勝負、容赦なく素手の相手に小手打ちを手加減なく決めたのだ。
相当な痛み、男たちは悲鳴をあげて蹲る。
「おぉ～お、部長さん未経験者相手に手加減なしだよ！！ じゃぁこっちもねぇ～」
さらに後ろにいた男たち、２人・３人・４人、次々と竹刀を持ち湧き出して来た。
相手を打つ為に一歩・二歩と踏み出したはずの麻衣子も再び角に追い込まれる。
下がる場所はない。竹刀の先端が４．５本麻衣子の前で止まっている。
麻衣子の激しい小手打ちの威力を見た事もあり、少しの睨み合いが続くが、
ジリジリと距離は縮まり、ついに一斉に向かって来た。
次々に向かって来る竹刀の先端に凄い勢いで反応してみせる麻衣子。
剣道部部長の実力は飾り物なんかじゃない。
しかし数が数、追い込まれている事で姿勢がとれず大きな振り出しも出来ない。
１． ２本の竹刀に応戦する中、胴を突かれ、激しく揺れる垂れまで突いて来る。
元々相手が剣道をしているわけではないし、そして目的も違っているのだから・・・
垂れを狙っているのでなく、麻衣子の陰部を露骨に突いているのだ。
防具を着けたままなので腹部などはカバー出来ているが、本来なら狙われる事のない部分、
下半身への執拗な突き、そして面を外している麻衣子に情けなく首・顔面を竹刀が襲う。
強く振れない威力のない麻衣子の竹刀に対して、男たちの竹刀は押すように突いて来る。
やがて体力だけ消耗して力を無くした麻衣子の竹刀、
男たちの突く激しい竹刀に挟み込まれてしまい、麻衣子の竹刀は動きを抑えられた。
男たちに竹刀を掴まれて奪われ、押し倒されるように麻衣子は床に倒された。
プリンセス・・・
でも、容赦ない。仰向けに倒された麻衣子の首を竹刀で押さえつける男。
倒れて自由を奪われた麻衣子の陰部めがけて竹刀の先端を突き刺す男。
男たちはぐったりとなった麻衣子の防具を次々に外す。
紐を解かれ胴を外され、そして引っ張るように外された小手は放り投げられた。
まるでボロきれのように粗末に扱われるプリンセス剣士。
濃紺をさらに濃くするように汗の染みた道着・袴、むしり取られる。
既に倒された麻衣子の頭（髪）・体の汗で床が濡れて光っている。
まるで激しい練習中のように高くした体温・汗、
麻衣子の道着から女性剣士の匂いが周辺に広がっている。
今、この広い空間で道着を身に着けているのは麻衣子一人なのだから・・・
そしてその道着の全てを失った麻衣子。
上下とも真っ白な下着姿、ブラジャーとショーツだけの姿にされた。
それも汗で張り付き、そして不自然にずれた状態のままの姿になっている。
“パシャ パシャ”
男たちの動作音に紛れて、デジタル機器の渇いた作動音が聞こえた。
他の部員たちの下着姿・全裸・セックスシーンが中ページだとすれば、
麻衣子のその姿は表紙・巻頭・巻末を飾るに相応しい、全ての目的の先だ。
麻衣子を囲み撮影しているスマホの数は男の人数に近い。
今、麻衣子を押さえつけて作業している男たちの分は、麻衣子の敵となった女たちが撮る。
“八宮麻衣子”を裸にすると言うことは大変な事だ。リスクが大きい。
だからこそ尚更、彼らは必死になって撮っているのだろう。保険のつもりかもしれない。
願わくば金銭にでも換えるつもりか。
ブラジャーの消えるシーンは無残だった。
気品のある優等生プリンセスには男受けする大きな胸は必要ない。
年齢より若く見える少女のような肌のキメと一致し、
無駄のない薄い色の小ぶりな胸が似合う。
その胸を穢れない真っ白な、それも努力の汗で重くした小ぶりなブラジャー、
男はそれを片手で簡単にむしり取って、待ちわびる男に投げた。
案の定、それを受け取った男は躊躇なく、つい数秒前まで麻衣子の皮膚に触れていた、
その湿り気どころか体温まで伴った“薫るブラジャー”を吸い込んで見せる。
自分の口・鼻で麻衣子の肉体の全てを感じるように。
何も着けていない麻衣子。何もない麻衣子。
プリンセスの全裸は選ばれた君子にだけ宛がわれるものに思えるが、
野蛮な、穢れいっぱいの男、そして妬む女・従う女の前に晒された。
脚を広げられて撮られ、脚を折りたたまれて撮られ・・・
わざと“胸を揉まれている八宮麻衣子”を演出するかのような画像も撮られる。
それでもそれを利用する先を考えているのか、それ以上の失礼はしない。
他の女たちがされたペニスを握らされ・口に押し込まれたような場面。
中に入れられそのシーンを撮られ、腹部や顔面に射精される、そんな場面も。
ない。そこだけはプリンセスを敬っているのか、または後の事を恐れているのか。
でも・・・
まっさらなプリンセスはどれだけ傷ついただろう。“この程度の事”などではないはず。
麻衣子は部活動をやめた。ただそれだけ。
誰も何もその事に口出しする者もいない。
特別な人間だから狙われた、でも、特別な人間だから助かった？！
傷をつけた八宮麻衣子もやがて八宮から巣立ち、“麻衣子”として生きて行く。
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