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「島の女」




今年の夏は最悪の夏だ。
“最高の夏”のちょっと手前で一気に奈落の底に落ちた・・・

本当は今頃、俺は伊豆諸島の民宿でアルバイトをしているはずだった。
“一年越しの夢”が叶う瞬間が目の前だったのに。
今、俺は病院のベッドの上にいる。しかも足を骨折している。
同室には爺さん婆さんばかりだし。悔しくて仕方ない。
ただただ、去年の夏を思い出すばかり・・・



大学2年の夏休みだった。
俺は伊豆諸島にある民宿のアルバイトに行った。
東京からフェリーに乗って、長い時間船酔いしヘロヘロになっていた。
島のフェリー乗り場に到着すると、民宿の名前が入った軽トラックがあった。
しかし、誰も乗っていない。
俺が少し待っていると、やっと茶髪の女性が現れて言った、
「大樹君だよね?  おぉ~、履歴書より良い男だね」
「あれっ?! 顔色悪いねぇ。もしかして船酔いしちゃった?」
その女性は俺に遠慮なく笑っていた。
それがその“想い出”の始まりだった。

“釣り船民宿”のその民宿も、夏場は若い人たちの海水浴や旅行がメイン。
釣り船と漁師、そして料理まで出来る宿の御主人とその御両親、
そして、俺を迎えに来てくれたその人は奥さん。小さい子供がいる。
俺の他にアルバイトが二人。少しだけ早くに来ていた一応先輩となる男1女1。
客室5部屋の、予想していたよりは綺麗な民宿だった。
アルバイトは民宿の仕事が空けば、御主人の仕事を手伝う事もある。
俺は“個室”に入れられた。
とは言っても、四畳半の部屋を板で仕切っただけの個室。

でも、思ったよりも居心地はよく、御家族はみんな明るく性格も良いし、
賄いの食事も美味しいものが多い。まぁ、作業でお腹が空くし。
景色が良いのは勿論、暇な時には海が目の前だ。
何より気楽だった。
俺は同世代が意外と苦手なのだが、幸か不幸か先輩格の二人のアルバイト、
既にカップルになっているようだった。下手に構われるより、かえってありがたい。
食事の支度・布団上げ・掃除・昼仕事・夕食の準備・布団敷き・後片付け・・・
ダラダラした大学生の夏休み生活より、とても健康的だ。


そんな日々を続ける中、俺の中で少しずつ変わって行く事があった。
俺は周りとの距離も含めて気楽だったしマイペースだったけど、
気が付くと、自分の中に生まれていたものがあった。
“奥さんへの想い”
俺を迎えに来て・俺を笑ったあの人。
元気で、そして賑やかで、いつでも笑顔の人。
ショートの茶髪には、洗いざらしのTシャツとジーンズ、そしてスニーカーが良く似合う。
他のアルバイトが“仲良しちゃん”なので、俺に気を使ってなのか、
よく話しかけて来てくれる。俺も奥さんと話すのが楽しい。
そして最近、気が付けば奥さんの顔を見ている。

御主人と夫婦の顔で会話する奥さん。
子供とお母さんの顔で会話する奥さん。
御主人の御両親と嫁の顔で会話する奥さん。
お客さんと明るく会話する奥さん。
そして、俺たちと笑い話をしてくれる奥さん・・・
いつしか、そんな奥さんの表情を浮かべながら眠る様になっていた。
好きなのだと自覚した頃だった。

自分の奥さんへの気持ちが顕著になるほど、俺は自然に振る舞えなくなる。
そんな事が増えるほど、俺を心配したのか奥さんの“声掛け”は増えた。

もう3週間を過ぎようとしていた頃だと思う。
奥さんは俺を山菜取りに誘った。夕食のおかず用にと言っていた。
俺は奥さんの運転する軽トラックの助手席に乗り、少し緊張していた。
奥さんは変わらずに明るい。
ずいぶん長いこと走った。ちょうど島の突端のあたりまで来ていると思う。
山菜を採っている時も楽しげだった。
俺はどんどん無口になってしまった。
「ごめんね。私うるさい?」
奥さんがそう言ってくれても、俺は返事すら出来なくなっていた・・・
「どうしたの?」
奥さんが俺の近くに来て、正面に立って俺にそう言った。
「・・・」
勇気を出して俺は言った、「奥さんの事が好きです」
小さな声しか出なかった。

「えっ?! えっ、、何で?! 私33のおばさんだよ! バカだし・・・」
そう言って、俺が奥さんばかり見ている中で初めての困った表情を見た。
俺は罪悪感で、「すみません。本当にすみません」と言った。
奥さんは、「何で謝るの? 嬉しいよ。そんなこと言われること無いし・・・」
優しく言ってくれた。
「困ったなぁ・・・  そんなこと言われたこと無いから・・ どうしよう・・・」
本当に困った表情になっていた。
俺は「気にしないで下さい! 俺が勝手に好きなだけなんですから・・・」
「嫌な思いをさせて、本当にごめんなさい」、そう言うと、
「えぇ~・・・ どうしよう・・・ 何でそんなこと言うの?」と、
見た事も無いほど奥さんは困った顔になり、そこにしゃがみ込んだ。

俺は奥さんに大変な事をしてしまった様な気持ちになり、
「気にしないで下さい。楽しくて明るい奥さんの事、みんな好きなんですから」
「笑顔でいて下さい!」
俺は奥さんに笑顔を戻そうと、必死になっていた。
「ありがとう・・・」、奥さんは静かに言った。

帰りの車の中では奥さんの方が元気が無かった。
俺が奥さんに話しかける、いつもとは真逆の状況が続いていた・・・
長く下り坂が続いて、海の見えるカーブを過ぎた頃、
奥さんは急にクルマを止めて、いきなり後ろを見ながらバックし始めた。
「どうしたんですか?」と俺が聴くと、
「行きたいところがあるの!」と何か一つの物に向かうような表情だった。
数十メートルバックして海側に下りる脇道に入り、坂を下った。
行き止まりでクルマを止めた。
「ここまでなの。ここからは歩きだからついて来て!」
迷いなど無いような真剣な表情で俺に言った。

草木の生い茂った足元を進み、途中、急な段差を下りたりして・・・
そこは急に現れた。
目の前に広がった最高の景色。
何もない。誰もいない。ただ自分たちだけの海岸。
「私ねぇ、ここが大好きなの。ここ、ダンナにも教えてないの」
「何かある時とか、よくここに来ていたの。久しぶりだなぁ~」
やっと奥さんは笑顔を見せた。
俺はホッとしたし、何より嬉しかった。
奥さんは何も言わず、しばらく海を見ていた。たまに深呼吸をして・・・


「泳ごっか?」
奥さんは突然言った。
俺は驚いて、「水着もタオルも無いですよ!」と奥さんに言った
それに返事をする事なく、奥さんはTシャツを脱ぎジーンズも脱ぎ、下着まで。
それを砂浜にまとめて海に走って行った。
少し沖まで行くと、「気持ち良いよぉ~!! 早く来なよ!」と大きく手を振った。
俺が動けずにいると、「早く早く!」と大声で言った。
俺は恥ずかしさもあったけど、勇気を出して全て脱いだ。そして、海に入った。
少し冷たいけど、確かに気持ち良い。

奥さんは俺に近づき、「すごく気持ち良いでしょう?!」と俺に言った。
奥さんは気持ち良さそうに泳ぐ・・・
最高の笑顔だ。
やがて俺のところに来て、「ごめんね、何も出来ないけど」そう言って、
水中で俺を抱きしめた。そしてキスしてくれた。
奥さんは「そろそろ上がるよ、髪が乾かないから・・・」と砂浜に向かった。
俺も後を追う様に上がった。
砂浜に上がった奥さんは自分のTシャツを下に敷き、そこに座った。
「タオルないからねぇ~  天然乾燥だね?!」と笑って言った。
俺も同じように隣に座った。


「あんまり見られると恥ずかしいなぁ・・・」と奥さんは下を向いた。
「私、おっぱい無いんだよねぇ・・・」と笑って言った。
奥さんはスレンダーで、確かに胸は無い。
だけど、俺は奥さんの体が好きなわけじゃない。奥さんそのものが好きなんだ。
俺は隣にいる奥さんを見ていて胸が熱くなった。
顔を押さえ、そっとキスをした。受け入れてくれる。
「私なんか・・・」とまた困った顔をする。
俺は奥さんを砂浜に押し倒した。上に載ろうとすると必死に抵抗し、
「それはダメ。それだけはダメなの・・・」
「主人と子供がいるの。大切なの・・・  だからそれだけは許して」
涙を溜めていた。それに気付かれないように奥さんはまた海へ走った。

俺は大変な事をしてしまった。
俺の為に勇気をもって行動してくれた奥さんを裏切ったのだから・・・
奥さんが戻るまで砂浜で待って、「本当にすみませんでした」と謝った。



民宿に戻る途中にスーパーで買い物をした。
その時に気まずくなっていた雰囲気をまたも奥さんが壊してくれた。
明るく冗談を言ったり、色々な表情を見せた。
きっと、民宿に戻った時に普通でいられる様、ストレッチの意味もあった様に思う。
その日から関係は変わらなくても、景色は変わった。
だって、奥さんはただの憧れではなく、俺の気持ちも知っている人なのだから。
それに、あんなに近く感じられたのだから・・・



別れの日が来るのは早かった。
あっと言う間のバイト期間も終了し、帰りの日を迎えた。
あの後に特別な事があったわけでもない。
前夜、二人だけになった時に抱きしめ、キスをしてくれただけ・・・
「私、島の女だから・・・」
その言葉が耳から離れなかった。
しかし今年、その島に向かう事は出来なかった。






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