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「好きになっても良いですか? ~ バックヤードの聖母 ~ 」




僕は大学通学途中のターミナル駅でバイトしている。
珍しさの無い丼ぶり物のチェーン店。
他にやりたいバイトがあったのだけれど、母親の紹介でその店に決まってしまった。
母親の高校時代の部活の後輩という女性が店長をやっている店。
僕には夢があった。
大学に入ったらきっと、かわいい女の子が多い店でバイトしてそこでカップルになる。
そう決めていた。高校時代にはそのプランは固まっていたのに・・・

僕は結局、母親の頼み事を断り切れない御人好しで、“良い子ちゃん”なんだ。
大半が男ばかりで、引継ぎ前の昼間のシフトだっておばちゃんばかり。
良い思いが出来ない人生に違いない・・・



そんな思いで始めたバイト生活だった。
でも、その状況はやがて変わっていった。自分の予定とは違う方向で。
2ヶ月ぐらい経った頃だろうか・・・
僕たちのシフトから大勢の脱落者が出て、しかも募集に応募はあるものの続かず。
そんな状況が繰り返されていた。
僕らは勿論だが、母親の後輩である店長の朱美さんは本当に大変だったと思う。
元々知り合いと言う事もあったし、その頃には僕も慣れていたから、
当初は週4日の予定だったシフトも、終わってみれば週6日勤務な事も多かった。
仕事が嫌いだったわけじゃないし、お金が増えるわけだから不満は無かったけど、
使う暇が無いのも、どこか目的を無くした様で変な感じで。

それに自然にそのシフトを受け入れていたのは、母親の知り合いだからと言うだけでなく、
朱美さんが尊敬・信頼できる人だったからだと思う。
僕の母親も同級生の中では若い方だが、朱美さんはその後輩。
なのに可哀想に、結婚した男性が散々だった様でシングルマザーになっていた。
中学生の子供を実家に預けながら、朱美さんは必死に働いていた。
30代後半だと言うのに、俺たち大学生男子よりもよく動く。
昼間の勤務から俺たちのシフト中盤まで、連続10数時間の勤務も日常的だったし。
文句を言わない人。そしていつでも笑顔でいる人。
それはお客さんだけでなく、僕たちバイトなんかでも同じで・・・
こんな言い方は失礼だけれど、朱美さんは背が小さいしショートカットだから、
何て言うか童顔だし、子供みたいなカワイイところもあって。
確か身長も150センチちょっとだったと思う。

忙しい中で少し手が空けば、僕たちにお茶を入れてくれたりする。
自分は連続勤務中だと言うのにだ。疲れた顔を見せないで笑っている。
でも・・・
だからこそ、僕はどんどん朱美さんの表情が気になっていた。
どうしても一人の時の朱美さんの表情まで追いかけてしまう。
さすがの朱美さんも、不意に疲れた・疲れ切った表情の時がある。それに気が付いた。
そんな時、僕は胸が痛くなる。
あんな小さな体で必死に店を回している朱美さんが・・・
最近、その痛みが自分の中にずっと残ってしまっていて、それが消えない。
少しでも休んで欲しいと思ってしまって。そんな事ばかり考えて。

母親は言う。
「朱美は元気だから大丈夫だよ。あの子部活の時だって私たち先輩以上だったから!」
「別れた旦那の暴力からも子供を守りきった強さがあるしね」
僕の母親も強い人だから、その母親が言う朱美さんの強さは本物だと思う。
でも、その朱美さんの強さはいつだって守りたい誰か(何か)の為な気がする。
朱美さんは紛れもなく子供を守ろうと必死なのだと思う。
何より、僕を朱美さんのところでバイトさせたのだから、母親だって心配している。


店内のお客さんの波が途切れて、相方が休憩している時でさえ僕は店内に残る。
店長である朱美さんにはそれは迷惑なのかもしれない。
でも、朱美さんを見ていたい気持ちが大きくなって・・・
そして僕は、僕の中の“朱美さんの近くにいたい”、そんな気持ちにも気づいていた。
大学生の僕が、自分の母親の後輩である30代後半の女性を好きになる事は・・・
普通なら“バイト先のおばさん”との関係に過ぎないのかもしれない。
彼女に無関係でバイトした先の店長だとしたら、違っていただろうか。
彼女が小さい体で頑張っていなければ違っていただろうか。
年の大きく離れた知り合いのシングルマザーを好きになった大学生はどうしたら・・・
そう。僕は店長の事が、朱美さんの事が好きだ。

初恋から今までの、同級生や先輩・後輩を好きになった気持ちとは違う。
また、先生を好きになった様な気持ちとも違う。
説明なんか出来ない。遥か年上のしっかりした女性。
なのに守りたくて、僕になんか何の助けも出来ないのに、それでもそばにいたい。
朱美さんはカワイイ人だけど、別に性的な魅力で惹かれているわけではない。
子供のようなサイズだし、また、そっちの趣味もない。
でも・・・
抱きたいのではなく、抱きしめたくなる人。
僕なんかより遥かに大きくしっかりした人だから、抱きしめるなんておかしい。
それでもあの後ろ姿を見ている程、どうしてもその気持ちは膨らんで行く。

バイトの中ではある意味僕は特別な存在だ。
それは先輩の息子という事もあるし、こんな状況で優先的にシフトに入っているから。
だけど、それは女性店長である朱美さんにとっての異性という扱いには程遠い。
勤務時間のせいだけでなく、大学にいても自宅に帰っても頭の中は朱美さん一色だ。
母親もさすがに、“少し疲れてるんじゃない?”と聞いて来る事がある。
でも、求められる限り、僕の方から彼女と一緒の時間を減らす事などあり得ない。
今、彼女は僕の全てなのだから。


急に暑くなった日があった。しかも湿気が多くてムッとした日で。
僕らも全員汗が溢れた日だった。店長も一層疲れた顔になった日。
そしてそんな時に限って体調が悪いとバイト一人が早退した。
別に少し気持ちが悪くなった程度なのに、店長が帰した。朱美さんはそんな人だ。
僕のシフトに入って2時間以上過ぎたところだった。人の波も引いて・・・
店長が急にその場に蹲った。
「店長大丈夫ですか?」
僕が声をかけても、店長は“大丈夫”と微かに発するだけ。動けない。
疲れも溜めに溜め、そして急の厚さと湿気と。本当に辛かったはずだ。
僕は店長を抱え、一旦バックルームに座らせた。
しかし店長は蹲ったままだし、顔色も青ざめている。
この場所では楽な姿勢になれないので、僕は店長のクルマの鍵を探し、
店長のクルマまで店長を運んでシートを倒し、そこに寝かせた。
まだ気温が高かったので、彼女のクルマのエンジンをかけ、エアコンをつけた。
瞳を閉じた彼女は涙を流していた。そして“ごめんね・・・”と・・・

その後は僕と新人で何とか店内を回した。客数も比較的少なかったし。
1時間以上過ぎた頃、僕は店長のクルマに向かった。
彼女は目を開けている。空を見上げる様に、そして沢山泣いたのだろう。
僕が近づくとこっちを見た。そして慌てて涙を拭いていた。
彼女は急いでシートを起こし扉を開けた。
「ごめんね。迷惑かけちゃって。ありがとう。頼りになり過ぎるよ・・・」
彼女は優しく温かい笑顔を俺に見せてくれた。
“ちょっと”
そう言って彼女は僕を手招きした。
静かに僕の首の後ろに手を回しながら“こんな事しか出来ないよぉ・・・”
優しく、でもしっかりと僕の唇に彼女は唇を合わせてくれた。

「忘れて!」
そう言って彼女はクルマのドアを勢いよく閉めて、足早に店内に向かって走った。
誰もいない駐車場に残された僕に、何故か風が吹き抜けた気がした。
店内に戻った店長は元気いっぱいだった。
あの笑顔は誰をも幸せにする笑顔。大切な笑顔。

家に帰ってからも、その事から頭が離れなかった。
大好きな店長、いや、朱美さんを僕は守れたのだろうか・・・
そして彼女の遠慮がちで控えめで、でも必死にくれたキスな気がした。
彼女は志の高い人。店のバイトだし、何より先輩の息子。
バツ1のシングルマザーとなった自分にも厳しい人なのだから。
だからこそ、そんな彼女が精一杯くれたあのキスは嬉しかった。
きっとどうなるものでもない関係。
“僕たちの関係”などと呼べる様なものでもないし・・・
僕が男と意識されたものでもない。それぐらい分かっている。
でも、好きな女性が自分からくれたキス。それは嬉しいに決まっている。

僕は好きだ。特別な関係になどなれなくても、それでも好きだ。
ちゃんと大人になる。この気持ちを大切にして・・・





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(プラトニック 年上女性 ショートカット アルバイト チェーン店)


テーマ : スイートストーリー(恋愛系作品)
ジャンル : アダルト

tag : 女性店長憧れ聖女バイト先責任者シングルマザー大学生

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