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「フェードアウト」




「おい! ここに良い女いるぞ!!」
今も俺の前でその大声を発した男の顔は忘れられない。
自分の女が大勢の男たちの前で胸を開かれ、露わにされた太腿を弄られ・・・



痛い記憶。
まだ俺が大学生だった時の彼女・・・
ウインタースポーツ系のサークルで出逢った彼女。
俺が一年の終わりに入会した時に3年だった女性。
二つ上だった事もあるが、性格も正反対だったところに惹かれたのかもしれない。
何事にも慎重過ぎて何も出来ない俺。そして、何でもすぐにやってしまう彼女。
俺はあっと言う間に彼女に引き寄せられていた。

紅美(こうみ)。
とにかく活発で、いつでも元気で笑顔で。サークルでも中心にいて。
俺はずっと閉ざしていたけど、紅美はそんな俺に遠慮もなくグイグイ入って来た。
まるで大人しい弟に意地悪して遊ぶ姉の様でもあり・・・
そんな時間が過ぎたのち、サークルメンバーのバースデーパーティの帰り道、
俺たちは特別な関係になった。
激しく酔った紅美は突然俺にキスして来た。激しいキス。
路地裏の狭い場所で、俺はまるで押し倒されそうになっていた。
「友貴(ゆうき(俺))かわいいよ。好きだよ。私のこと怖いの?!」
「あなたは私のそばにいれば良いんだよ・・・」
紅美の激しいキスは数分間続いていたと思う。
最後には完全に俺の上に重なり、紅美が俺を抱いているかの様だった。

そんな特別な関係になった俺たちの事、それをすぐに暴露したのも紅美だった。
彼女らしい。
「私、友貴と付き合ってんの。いい?! 彼に手を出しちゃダメだよ!!」
彼女は周りにいる自分ファンの男たち、そして他の女子たちにそれを浴びせた。
良くも悪くも俺は、その言葉のおかげで特別な場所を用意された事になる。
サークルの中心的メンバーのすぐ隣に座る物静かな新人男子。
1年近く、俺はその不思議な場所に、でもいつしか普通に座る様になっていた。
やがて彼女は就職活動や習い事で忙しくなったしサークルを引退。
俺は性格とは関係なく流れ的にサークルの中心メンバーとなって。
そして彼女は俺たち後輩を残して卒業し就職。

付き合いが長くなっても二人の性格は変わらなかった。
彼女は相変わらず積極的で怖い物知らず。俺は大人しく慎重過ぎる。
ただ、彼女は付き合い始めと変わっていないかもしれないが、俺は・・・
好きになったと思う。最初は強引に引っ張られた様な気がしていた。
でも、そんな“わからない時間”の後、気が付けば俺は彼女だけを見ている。
それに気が付いてしまった。
いつも強引でワガママ・身勝手に見える彼女を前に、俺は怒るし不機嫌になる。
でも、それなのに結果的には一緒にいる。隣には彼女しかありえない。
そう思うほどに彼女を抱きしめたくなるが、悔しくて我慢する事も多かった。
紅美は自分の道を歩いている。俺は隣、時に後ろを歩いていた。


彼女は目的・目標に対してストレート。
“これがしたい” “それが食べたい”はそのまま俺にぶつけてくる。
俺も一応は抵抗を試みるけど、結局は毎度押し切られてしまう。
そして今回も。まぁ、珍しくはない、毎度の事。
「13日、スタジアム戦(サッカー)のチケットとっちゃった!」
大学生で時間のある俺よりも、社会人となった彼女の方がアグレッシブで・・・
もう既にチケットをとってしまった彼女を止める事が出来るわけもないが、
俺は気が進まない。元々サッカーに興味もないし、賑やか嫌いなのだから。
だけど意気上がる彼女の表情に水は差せない。
そのチームの試合はここ数試合大荒れで、サポーターの暴動の様な事も起きている。
まぁ、ここは日本だから、ある程度の限度はあるけれど・・・
それでも俺は、トラブルや事件に巻き込まれる心配をして彼女に言ってはみたが、
「心配ばかりしてどうなんの? 楽しい?? いざって時は私が守ってあげるよ!」
「友貴の心配性は病気だね。そんなんじゃ良い社会人になれないよ」
予想通り、俺の心配はスルーされた。


始めて見た。
もの凄い歓声・声援・怒号。
スタジアム全体が揺れ動く様な地響きに怖さまで感じた。
そんな中でも彼女は大喜びではしゃいでいた。応援するチームのシャツを着て。
こんな煩い中でも負けないぐらいの大声を彼女は出している。
“社会人になってからのストレスもあるのかなぁ・・・”
そんな事を思いながら、立ち上がり・大声を出し・大笑いし、
そんな彼女の表情を見ていた。彼女、選手に負けずに汗をかいている。
しかし・・・
残念ながら彼女の応援するチームは分かり辛い判定⇒PKで負けた。
スタンド全体は真っ黒な雲に被われたような雰囲気になっていた。

試合が終わってからも怒号は続いていたし、客も帰らない。
彼女も自分の関係者の事の様に判定の事に怒っていた。
それでも客席から次々と立ち上がる様になり、“帰ろっか”そう言って、
彼女と俺は出口へ続く列に並んだ。
スタジアム内のコンコースも大荒れで怒号だけでなく、相手チームのサポーターとなのか、
喧嘩も起きていた。野次馬や楽しむ者も多くて、そのせいで人だまりが出来ていて、
混雑の先が進まず、どんどん中央に人が集まって来ていた。
後から後から帰りの人がやって来て人の密度は増し、そして少しずつ押して行き・・・
騒ぎが大きくなってからは完全に前方が塞がれ、既にオシクラ饅頭状態が始まっていた。
あちらこちらから女性の悲鳴が聞こえて来た。
最初は“痛いっ!”とか“押さないで!”とかだったのだが・・・


それはやがて・・・
「やめてよ! 触らないでよ!!」
そんな声が上がり始めていた。
いつも通りと言うか、今日も紅美は俺より少し前(2.3メートル)を歩いていた。
最初は隣にいたが少しずつ離れて行き、いつしか間隔が離れてしまった。
それでも俺は180センチ近く身長があるので、
160センチに少し足りない紅美でも数人先に見えていた。
“キャー! やめて!!”
俺はその悲鳴でまったく離れた場所、遠く真横から聞こえたその方向に目をやった。
同じシャツの集まる中で、一人だけ激しく動いているのが分かった。
よく見るとその女性は必死で暴れている。
周りを同じシャツを着た男たちが囲み、髪を掴まれ、
そして服の上から激しく胸を揉まれていた。
周りの男たちは“おぉー!!!”と歓声を上げ、さらにヒートアップする。
「脱がせろよ! 脱がせちゃえよっ!!!」

その異様な雰囲気と空気に一瞬付近全体の空気が静かになったが、
ほんの少しの静寂の後、どこからなのか別の場所で“キャー!!”と声が響いた。
その女性の声がまるで合図になったかの様に悲鳴と怒号が飛び火し、
あちらからこちらからと女性の悲鳴が聞こえる様になっていた。
現場が見えずに悲鳴だけが大きいもの、そして男たちに取り囲まれて激しく抵抗する女性。
ついに無法地帯になった。
勿論、そんな中にも“やめろー!”とか“やめなよー!”とかの救いの声はある。
しかしそんな声たちはこの激しい流れの中にあって何のチカラも無かった。
そして紅美の声も聞こえていた。
「やめなよ! 何やってんのよ!!」
活発的で目的意識が強く怖い物知らずの紅美の、あの声が響いていた。
でも、そんな行動が次の瞬間に悲劇を生んでしまった・・・


「おい! ここに良い女いるぞ!!」
一人の男が女性を囲んでいた連中に向かって大声を発した。
そいつは続けて、
「この女、自分を裸にして欲しいってさぁー!!!」
遠くまで響くほど大きな声、そして憎らしい顔で紅美の方を見ながら言った。
もう瞬間だった。
大変に混雑した身動き出来ない状況だと言うのに、
紅美は一気に男たちの中に引き摺り込まれた。
「何すんのよぉ! やめてよ!!」
紅美のあの声も、今も耳から離れないまま。

「やめろー!! ふざけんな! 紅美!! 紅美!!!」
俺は必死に紅美を連れ込んだ男たちに向かって叫んだが全く相手にされない。
しかもそんな俺を“あの女の彼氏”と薄ら笑う者・邪魔する者まで・・・
紅美への扱いは他の餌食とされていた女性たちとは数段違っていた。
確かに周りに点在して囲まれている女性たちも触られ、胸を出されている女性もいた。
しかし輪は小さいし、ただ数人の男たちが触っている程度。
紅美の周り、人数が違う。そして男たちの熱気が別物だった。
あの元気な紅美が全く身動き出来ないほど、多くの手で全身を押さえつけられ、
激しく顔を歪めるが、容赦なく紅美の髪を掴み上げる者、口の中に手を押し込む者・・・
紅美がオモチャにされている・・・


あっと言う間だった。
着ていたチームのシャツは一気に脱がされ、黒いサテン地のブラジャーを曝け出した。
男たちの雄叫びが聞こえ、周りの男たちもスマホで撮影している。
そのブラジャーさえ一気に捲り上げられた。その時の歓声は凄かった。
紅美は胸が大きいしウエストが細いから余計に大きさが強調されてしまう。
飢えた男たちの前に最高の肉を差し出してしまった様な。
いや、燃盛る炎にガソリンが投げ込まれる様なものだったのかもしれない・・・

男たちは既に紅美のジーンズに取り掛かっていた。
数人の男たちが押さえつけられた女のジーンズに群がる光景。
ボタンを飛ばす様な勢いで開き、そして生地を開く様にファスナーを開き、
完全に開かれるタイミングなど待たない速さで一気に引っ張る男たち・・・
彼女は全裸、ブラと同柄・同生地のショーツ1枚の姿にされて押さえつけられている。
俺は彼女の場所へ近づくどころか引き離されて行く。
そして残酷にも、その場所の方がその光景全体が見える場所だった。

そこに参加している男たちを殺してやりたい。
そして、楽しそうに脱がされた紅美の裸をスマホに収める男たちを俺は許せない。

紅美を囲んでいる輪が観衆を集めているせいで、周辺で痴漢されていた女性たちは、
友人や彼氏などに次々に助けられていた。
もう、裸にされたり囲まれている女性もどんどん減って来ていた。
しかし紅美だけは・・・
全部脱がされた。もうたった1枚残っていたショーツも着けていない。
大きく脚を開かれ、大勢の前で男に腕を差し込まれ。
男は皆に見せつける様におもいきり数本の指を紅美の中に突っ込む。
苦しがる紅美を許さず、紅美の脚を押える男たちは一層大きく開いて見せる。
仲間たちに近くで紅美の陰部を撮影させて・・・
紅美はただ泣いている。何の言葉も発せないまま。


「やっちゃえよ!」「やれやれ! そこまで行ったらやんなきゃ~」
周りの無責任な外野たちが紅美を弄ぶ男たちにガソリンを注ぐ。
紅美を押さえつけていた男たちは躊躇していたが、どこからともなく、
「おいっ! 俺にやらせろよ!!」
輪の外にいたであろう片耳にピアス・片腕にタトゥーの入った男が割り込んで来た。
「遠慮なく頂くぜ! お前たちレベルじゃ面白くないんだよ!!」
男はそう言って、紅美の下半身側にいた余計な男たちをどかして、
手早く自分のジーンズのファスナーを下し、みんなの前で一気に紅美の中に入った。
「やめてぇ・・・」
細く小さな紅美の声は一瞬で、男たちの“おおっ、入れちゃったよ・・・”
そんな歓声に押し消された。

男はギャラリーを楽しむかの様に、思い切り激しく突き上げ紅美の胸を掴み上げた。
数人の男たちに押さえつけられた状態のまま、観客の中で本当に突かれている。
男は激しく紅美を壊しそうな勢いで突き上げ、あきらかに紅美の中に出した。
“おい、中に出しちゃったよ”
周りから男たちの羨ましそうで無責任な溜息交じりの声が上がっていた。
紅美を押えていた男たちが紅美を放した瞬間に紅美は床に倒れ込んだが、
男は紅美の髪を掴み上げて紅美を起こし、
「掃除しろよ!」
そう言ってスマホを抱え集まっている男たちに撮らせる様に紅美の口に突っ込んだ。
図々しい男たちは紅美の顔にスマホを近づけて撮影していた。
付近に散らばっていたはずの紅美の下着類も、既に持ち去られていた。


引く潮は一気に引いた。
身動き出来ないほどに周りを囲んでいた男たちはあっと言う間に散った。
“やり過ぎた”とか“まずい”、そんな空気になれば大半の男たちは逃げて行く・・・
紅美は広いコンコースの床に全裸で横たわっている。
俺は彼女の衣服をかき集め、彼女に走り寄って服を被せた。
「何で助けてくれなかったの?!」
彼女に罪はない。そんな言葉を不意に発してしまった彼女を責めるつもりもない。
俺は黙って彼女が服を着るのを手伝い、彼女を抱き上げてその場を後にした。
途中の水道で顔を洗った彼女。
「私、警察に行く・・・」
そう言っていたが、結果的には行かなかった。仕事の事もあったのだろう・・・


その事があって、俺への不信感もあったと思うし二人の関係はギクシャクした。
勿論、一番傷を負ったのは紅美だし、俺が何も出来なかったのは事実だから。
そんな険悪な状況が2週間ぐらい続いた後だったと思う。
俺と紅美の事を知る親友から授業後に喫茶店に呼び出された。
「ちょっと言いにくいんだけどさぁ・・・」
普段から気遣いで優しいその親友がいつも以上に俺に気遣っていた。
「何だよ? 遠慮しないで言えよ!」
俺のその言葉に本当に遠慮がちに言葉を切り出した。
「彼女、この前のスタジアムの騒動の時、あそこに居たのか?」
「あの時の騒ぎ、ネットでも話題でさぁ・・・」
奴は黙った。
俺の頭の中が繋がった瞬間だった。そう、紅美は沢山の男たちに撮られていた。
奴は気遣って直接画像を見せず、検索のキーワードと掲示板のサイト名だけ教えてくれた。
俺は部屋に戻り、恐る恐るそのサイトを開いた・・・
嫌らしい言葉、そして画像の数々。
サイトの中でも犯罪に近い物や、盗撮などの投稿物のコーナーのページに進んだ。
投稿日が新しく、そして閲覧数がずば抜けて多いスレッドが・・・

クリックした瞬間にそこに広がった画像。
全裸の女性が押さえつけられている。周りを大勢の男たちが囲んでいる。
女性の顔にはモザイクがかけられているが、その鮮明過ぎるカラダ・・・
紛れもない、それは紅美のもの。そしてあの時の。
スレッドは盛り上がっていて、全く別の投稿者が複数の写真をアップしていた。
スクロールする度、俺は息をのんだ。
本当に酷い画像だ。これでもかと接写していて、こんなに鮮明なもの・・・
そして中段まで進んで我に返った。
顔にモザイクのない画像が連続してアップされている。
脱がされる紅美・裸にされた紅美・触られる紅美・開かれる紅美。
そして・・・
タトゥーの男に抱かれる紅美までもが鮮明に撮られている。顔までも。
100件の投稿を超え、次々に広がっている。盛り上がっている。
中にはまずいと思ったのか削除された記事や画像も多かったし、
顔や陰部が未処理のものに対してのクレームも出てはいたが、それでも・・・

既にネットには氾濫していた。
さすがに修正されたものが大半になってはいるが、まだまだ顔や陰部が無修正の物まで。
俺はこの事を知ってしまい、紅美に何と言えばいいのか・・・
彼女の女性の友人が先に気付くとは思えない。勇気を出して俺が伝えるべきなのか。
悩み、結局数日遅れで彼女に電話したが、既に彼女は知っていた。
同僚の彼氏経由で知ったらしい。残酷にも、
「紅美行ったんでしょ?! 何かこの前のスタジアム戦、凄かったらしいじゃん」
「女の子が裸にされちゃってやられちゃったらしいよ。ネットに画像も溢れてるらしい」
紅美にはその同僚の言葉がどんなに残酷だっただろう・・・
結果的には遅れて、彼女は警察に被害届を出した。
集団で乱暴された事、そしてネットで画像を晒された事への被害届を。


もう俺はこちらから連絡できなかった。そして彼女からも・・・
風の噂では、彼女はその直後に会社も辞めてしまったらしい。
あれからもう4年ほど過ぎた。
今でも“あの画像”は有名な画像としてネットには氾濫している。
あまりに鮮明過ぎたし、彼女が美人で胸が大きかった事が伝説化してしまった要因。
“スタジアムで全裸にされレイプされた胸の大きな美人女性”
それは紛れもなく、4年ほど前の俺の彼女だった女性。

今でも忘れない。
あの時に「おい! ここに良い女いるぞ!!」と叫び、
今にも爆発しそうな男たちの中に紅美を送り込んだ男の顔。
紅美を押え込んだ男たち、紅美を撮影した男たち。そしてタトゥーの男。
夢にまで出て来る事がある。
でも俺の中で本当に消えない痛みは、きっと今なお抱え続けているであろう紅美の痛み。
その紅美の痛みから早々に逃げてしまった事だ・・・




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