2ntブログ

「困ったアイドル」




リゾートマンションの最上階角部屋。
部屋から海が見える条件で探したお気に入り。
私は一昔前、金融や不動産で利益を上げ、今は何もしない暮らしをしている。
40代の真ん中をさ迷うシングル。

私に“バブル”が起きた時、そのバブルに目をくらませた友人・関係者が嫌になり、
人間関係から私は遠のいた。
“静かな生活”と言えば聞こえは良いし、“寂しい生活”と言われれば情けない。
それでも、“困ってはいないが退屈だ”というところが現状かもしれない。


天気が良い。
ベランダから海を眺める。海岸道路を走るバイクの大きな音がしたので、
フェンスを乗り出し、下の道路を見ていた・・・
不意に横に視線を感じて横を見ると、顔がある。
驚いて一旦内側に下がるが、おそるおそる身を乗り出すと顔がある。
やはり視線があった。
隣のベランダに見た事の無い人がいる。
見た事のある顔だ・・・??

???
気が付いた!
テレビで見た事のあるアイドルだっ!
何と言ったか・・・ 4人組のアイドルのリーダーで・・・
と私は出て来ない名前の事で頭がフリーズした。
そうしていると、「天気いいですねぇー!」と馬鹿でかい声が聞こえた。
今一度覗くと、やはり彼女のようだ。
笑いながら、これまた大きな声で「こんにちはっ!」と言って来た。
こちらは勢いにおされ、「あぁぁ、こんにちは・・・」となってしまった。


「○○さんの家の方ですか?」と私が尋ねると、
「はいっ、私のおじいちゃん・おばあちゃんの家です!」とこれまた大きな声で返事。
テレビで見た事のある元気娘は天真爛漫、今日の天気より日差しが強い・・・
「あの・・・ アイドルの・・・」と私が言うと、
「はぁ? ・・・ そうでーーーす!」と笑った。どこまでふざけた女だ。
テレビでよく見かける人気アイドルがこんなところで楽しそうにしている。
フレームがないだけに不思議な光景だった。
再びベランダの内側に入り床に座っていると突然、目の前にジュースが浮かび、
「これ飲みませんか? めっちゃ美味しいですよ!」と言って来た。
言われなくてもそのジュースが美味しい事は知っているが、なぜそんなに煩いのか。
煩いは可哀想だが、元気過ぎる。元気過ぎる馬鹿アイドルは完全に地の様だ。


そんな事があった事すら忘れていると、テレビにそのアイドルが出ていた。
「いるいる、隣にいたよ馬鹿アイドル!」と心の声が言っていた。
そしてインターホンが鳴り、扉を開けると“馬鹿アイドル”
「すみません、卵焼きって入れるの塩ですか、砂糖ですか?」
「おじいちゃんとおばあちゃんに作ってあげようと思って!」とデカい声で言った。
“おいっ! 今テレビ出てんだろっ!!”と心の声は言っていたが、
「う~ん・・・ 砂糖多めで塩一つまみって感じじゃないかなぁ~」と普通に答えた。
“それが分かんないぐらいなら作らない方が良いだろ!”と心の声は言っているが・・・

「出来たらお持ちしますね!」って言って帰って行ったが、それは困る。
それにしてもいちいち煩い女だ。大きく口を開けて笑い、エクボを作って見せる。
歯並びが滅茶苦茶だろ!
それにいちいち上を向くほどの大笑いをするな。そう言いたくなる。
顔をくしゃくしゃにして、全身で笑う感じ・・・
私とは正反対のタイプで、ちょっと、いや、かなり苦手だ。
普通は芸能人と話せるって嬉しいものだと思っていたが、何か迷惑だ。
何でまだ二十歳前の小娘に付き合わなければいけないんだ・・・
“私の静かな生活を乱すな!”、そう言いたい。

嫌な予感はしたが、その上を行った。
インターホンがあるのに、ドアをトントン(実際はドンドン)と叩き、
空けた瞬間、「ジャーン! 卵焼き完成ぃ~!!」と笑っていた。
怒りたい気持ちは押さえ、
「あっ、おじいちゃん・おばあちゃんの分は?」と逃げようとしたが、
「ふふふっ、御遠慮はいりませぬ。もう一つ作ったでござる!」とぬかした!
おそらく私の顔の中心部上には縦方向のシワが出来ていたはずだが、
このタイプの人間は“それ”を感じ取ろうとしない。絶対やらない。
私は心を押し殺し、「ありがとう」とそれを受け取った。

なぜかケチャップが掛かっている。それなのに不味い。
予想を裏切らない不味さだ。
こういうお構いなしの自分の世界をそのまま持って来る様なタイプとは、
極力関わらない方が良い。それは先祖代々の家訓にもなっている。
さらにそれすら辛い記憶として忘れようとしていると・・・





目の前にいる。
大きな口を開き、口いっぱいに食べ物を入れ美味しそうに食べる。
何かの動物の様に、わざと私に口の中を見せながら食べる・・・
好きな時に笑い、好きな時に怒り、そして不意に泣く。
どうしようもない天真爛漫娘。この子は変わらない。
変わったのは・・・
私の方。
今、この救いようの無い馬鹿が、たまらなく愛おしくなってしまった。
ここに来るのは月に1.2回の事。
自由にはしゃぎ、そして疲れ、やがて寂しそうに帰って行く。

彼女は忙しい人気アイドル。
偶に静かな祖父・祖母の部屋に逃げてくる人気アイドルだ。
その部屋さえちょこっと抜け出して、ここへやって来る。
とても疲れていたり、時にわがままな事もあるけれど、私の前で弾ける。
私は何もしてやれないが、この子供の様に年が離れた女の子が愛おしい。
どんな表情をしていても、ただ見ていてあげたい。
時々泣く時がある。そんな彼女のそばに、ただ一緒にいてあげたい・・・






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