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「双子の気持ち」





人生には分岐点が付き物だし、それは善悪、そして幸・不幸の場面でも大きく影響する。
“あの時に違う選択がされていたなら・・・”
それを言っても意味のない事だが、不幸の種を育ててしまった当事者なら、
きっとそう思わずにはいられないだろう。
悪の道に進む人・不幸の中に入り込んでしまう人、彼らに大きく影響したそれ、
それは・・・
人生の早い時期に間違え、または迷いにより早々にボタンを掛け違えてしまった者たち。


藍と碧という誕生日が一日違いの双子がいる。それも姉と弟という女男の双子。
誕生日が一日違いになったのは深夜、難産の為に出産に時間がかかってしまったから。
姉の名は“藍(あい)”、弟の名は“碧(あおい)”。
二人の名前を見て不自然に思う人もいるだろう。
どちらも青系の意味のある漢字で、葵・蒼・藍・碧、読みも“あお(あおい)”と呼べる。
双子の場合には関連する名前が付けられる事が珍しいわけではない。
兄弟にしたって、関連する名前が流用される事も多い。それで遊ぶ親すらいる。
しかし彼らは男女の双子、そして女性の“藍(あい)”は普通の名前だが、
どうにも男性名としての“碧(あおい)”は不自然に感じる人が多いだろう。
そう、その不自然さ通り、人生を難しくしてしまったのは特に“碧”の方だ。
結果的にその影響も避ける事なく、藍の人生もまた幸せな人生には遠くなってしまった。

スタートは単純で、両親が“青系の名前”を希望して構想を練っていただけの事。
ところが突然双子である事が分かり、そしてなんと下が弟となってしまった。
さんざん考えていた名前が“青系”ばかりだった為、気軽にその名前を流用してしまう。
それが全ての始まりだ。
そもそも姉の藍はとても男性的でボーイッシュな女性になった。反対に・・・
名前が人をつくるとも言うが、碧は美しい心を持った優しい人間になった。
しかしその名前を背負った時、それはむしろ彼には負担が大きく、イジメの対象に。
それを庇うように、藍は強く激しく弟を守る姉になって行く。
「碧、泣かないの! 男らしくしなさい!!」
子供の頃の二人、近所の人は毎日のように碧を叱る藍の声を聞いていた。
幼稚園、そして小学校低学年の頃まで。
しかしいつしかその叱る姿は消えて行くことになる。
碧を叱れば叱る程に自分が男性的になって行く自分、藍もまた苛立っていた。
その藍を見て、ますます萎縮してしまう碧には男らしさを求めるのは・・・
藍が何も言わなくなった時、それは諦めの時でもあった。
“もう何かを言って碧が男らしくなるなんて思えない”
藍、そして家族がみな一致した時でもあった時期。

諦めたところで同学年の兄弟、姉妹?
お互い“知らないフリ”とは行かないし、相変わらず碧は虐められ続け、守る藍、
個々人、どんなに苦しんでもそこから逃れる事が出来ないままの学生生活は続く。
藍は強い女性だが、それでも女だ。それも弟想いの優しさは真実の優しさ、
彼女は本質的に正しい人間。
小学校高学年、そして中学に進んで行けば藍に対する揶揄いも度がキツクなって行く。
ガキ大将にランドセルを掴まれて引き回される程度で済んでいた小学時代。
でも、中学に入ってからはもうそんなレベルでは済まない。
いじめっ子・不良少年から碧を守ろうとするが、藍が攻撃を受ける。
それも一方的にやられてしまう・・・
セーラー服のスカートは捲り上げられ、押し倒されて両腕の自由を奪われ、
上半身を剥き出しにされた事もあった。それも弟である碧の目の前で。
自分自身の悔しさ、さらに弟の前でされてしまった事、どれだけの想いを押し殺したか。
姉がそんな目にあっても、碧はただ泣くことしかできない。
本当に泣きたいのは自分だとしても、それでも藍は溢れた涙のまま、
泣きじゃくる碧の背中を押して家に帰ることを繰り返す日々。

二人の地獄の日々。どこまでも続き先が見えない。
元々あった碧の性格的な問題、そしてさらに、両親の経営していた店が倒産した。
そして自己破産。
逃げ道なんて既になかったが、獲物を狙っている狼たちにはよりネタが増えた。
それまではまだ弟の為、そして女の弱さを見せたくない藍は強い心で頑張っていたが、
見えない先・落胆した両親の姿・会話すらなくなった家庭、もう支えを無くした藍。
不良たちの悪戯に抵抗する力も無くし、人気のない場所に呼び出され押さえつけられても、
もうまともな抵抗など出来なくなっていた。
沢山の人数の前で壁に押さえつけられ制服を次々にむしり取られ、
ついに全裸にされるようになった。それも一度や二度では済まなかった。
遊び盛りの上級生男子たち、女の事を色々と知りたい時期に、それは藍で試された。
その頃にはもう碧に関係なく餌食にされて・・・
無残、家庭が大変な時だと言うのに、藍は誰の子かも分からない妊娠までさせられて。
家族のそれぞれが行くべき場所を見失い、自分が今いる場所を忘れたい程の苦しみの中、
両親、藍、碧、みんながそんな場所に入り込んでしまった。

耐えきれなくなった母親は蒸発、父親も定職に就かなくなり既に家庭は崩壊している。
それでも行くところはなく、生活保護を受け、3人は同じ場所で暮らすだけの関係。
相変わらず碧の虐めもなくなるわけもないし、そして・・・
あの強い心を持っていた姉の藍さえ、子供を下ろしてもなお不良たちに弄ばれていた。
先輩の遊びに刺激された興味本位の下級生が先輩を真似、藍を呼び出す。
藍は同級生、そしてついに下級生男子にまで遊ばれるようになる。
脱がされ写真まで撮られ、警察沙汰になるも、先生・親、誰も守ってはくれない。
そうこうしているうちに2度目の妊娠。
年齢より、そして性別より遥かに強い心の持ち主である藍だったが、
その藍の手首には無数の躊躇い傷が出来ている。もう何重にも。
夜中に暗く小さな部屋の片隅で静かに涙を流し、そして刃物を手に・・・
毎回、朝には何も無かったような顔をして食事をしている藍の苦しみ。


形だけの進学、でも半年経つ事もなく行く事もなくなり、次の春にはその席はない。
一方碧は虐められながらも何とか進学、そして進級、高校を卒業する。
二人の、双子の人生は捻じれのようにクロスし、そして先へ進む。
まだ18。藍は年齢を偽って出張型の性風俗で働くようになりAVにも出演する。
生活の為だ。まだ未成年の藍を良いように利用する大人の男たち。
ホテルに出向いて1回、なんと藍の手元には2000円しか入らない。
AV、名も知れぬレーベル、出演料は一本1万5千円。
劣悪環境の中で高頻度で仕事を回され、体調も崩し、もう藍はボロボロになった。
家で寝込むようになり、やっと社会人として就職した碧が逆に面倒を見るように。
「藍、大丈夫? しっかり休んで、僕が頑張るから!」
少しだけ強くなった碧の姿だけが寝込んでしまっている藍に差す微かな光。
裸を撮影され集団で犯され、そして妊娠・堕胎。
風俗嬢に堕ち、そしてAVにまで出演して生きて来た藍には嬉しかった。
父親は事実上家を出て行っていた。知り合った女性のところに行ったようだ。
今、古ぼけた市営住宅の二間のこの家には藍と碧の二人だけ。
もうすぐ成人になろうとする二人、ずっとずっと苦しい時代だけを共に歩んできた二人、
それでも離れる事のなかった運命の二人の20年。


いつしか二人とも気が付く。
普通に藍の中にある男性の思想・心。自然に碧の中にある女性の思想・心。
そして“弱い弟を守る姉の役割”と思っていた・思い込んでいたその気持ち、
それが他人には無い、理解されないものである事に気が付くようになる藍。
遅れる事、少しずつ目の前でいつも自分を守ってくれていた姉・藍への想い、
それがまた他人に理解されない、普通の人間の中にはない物である事、碧も気付く。
ある朝、布団で寝入る藍、その藍の顔に静かに顔を近づけ、そして・・・
碧は優しい顔で寝入る藍の唇に自分の唇を静かに重ねた。
藍はそれに気が付き驚く、けれど、何も言わない。
静かに瞳を閉じた。
少し起き上がった姿勢のまま、優しい窓からの光の中、碧のキスを受ける。
弟から姉へのキス、男性から女性へのキス、そして女心から男心へのキス。
双子のキス。
男性にして碧の弱々しい細い手が、真っ白な無地のTシャツの藍の乳房を掴む。
藍は全てを許している、それに抵抗などしない。
優しく微笑み、その碧の手の上に自分の手を覆い被せ、また瞳を閉じた。
碧はそっと藍を布団に倒し、藍のTシャツを広げる。
藍によく似合っている真っ白なブラ。レースの飾り気のない、でも似合って・・・

碧は静かにそのブラを持ち上げる。少し小ぶりで、でも、淡くきれいな乳房。
そしてじっと見つめた。
自分の為に犠牲になり、まだ恋愛を経験する事なく、藍は汚い手でその乳房を弄ばれた。
何人もの卑怯で冷酷な男たちの手・・・
だから・・・
そっと包むように優しく。“ごめんね”
そんな声が聞こえて来そうな優しい感触、藍は優しく微笑み、そして静かに頷く。
静かに、そっと、碧は藍の胸に倒れ込み口に含んだ。
もう、意図せずとは言え男性経験を重ねた藍、彼女にも初めての感触だった。
優し過ぎる男性の、でも、自分にとってこの世の中で一番大切なもの、
その大切なものが今、自分の乳房を愛している。
“服、脱いで・・・”
静かに小さく、でも、それでも藍が碧を誘導した。
碧は一つずつ衣服を横に。そしてワンテンポ遅れて、藍も一枚ずつ横に。
お互いが全て脱ぎ、そして全裸になった二人。
ずっとずっと20年近く二人で生きて来た。そして自分の分身のような大切なその人。
肉体は確かに違う、藍は女だし碧は男だ。
お互いがそれぞれ自分の体・心・性に苦しみ、でも必死に生きて来た。
今、お互い、それぞれのカラダを前にしてつくづく思う、
“美しい”
自分にとって理想で、大切で、本当に愛おしくて愛おしくて仕方ないその肉体。
二人は布団に倒れ込むように重なり合った。


碧がまるで自分の物のように掴む藍の乳房。
藍はまだ経験のない碧を優しく誘導する。本当に優しく碧のペニスに触れ、
藍もまたそれが自分の一部のように優しく擦る。
お互いに穴が開いてしまいそうな程の眼力で相手を見つめ、その視線はお互いの唇へ。
そして互いの指が相手の唇を撫で、そのまま互いの口が重なり合った。
どんな関係ならこんなキスになるのだろうか・・・
そんな不思議な、優しく・熱く・深い、本当に不思議なキスが長い時間続いた。
体の大きさ・ライン、それはまったく違う。男、そして女。
でも、その肌のキメは一つとして繋がるもの。
碧の手が藍の肌を包めば、藍もまた碧の肌を包む。恐ろしい程の相性だ。
当然の事かもしれないが、双子の魂、
それもお互いが大切で、片側では存在し得ない二人、その半円の想いがそこに見える。
綺麗な半円、それが一つになっただけ、美しく正しい形なのは当然のこと・・・

既に経験を重ねた藍と初めてだった碧。
でも、まったく違うスキルの二人のはずも、
見事にお互いが最高のパフォーマンスで交わり、そして一つになった。
世間では許されない二人。この関係。
だが、誰にそれを問う事が出来ると言うのか?
重なる苦しい道を二人歩いて来た、そして常人には理解出来ぬその繋がり。
それぞれが本当に苦しい思いを重ねて来て、そして何度も壊れかけた二人。
普通の愛でなくて何が悪い??
二人の交わり、そして、もしそこに新しい生命が宿ったなら、
それは恐ろしい結末になるかもしれない。藍と碧の人生以上の茨な道を歩く事に・・・
それでも止める事の出来ない愛がある。結びつきがそこに存在する。


青い二人、いつしか蒼い時を過ぎ、また深い青を生んで行く・・・




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