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「僕の妹」




中3の夏。その時は突然、いやっ、“また”訪れた・・・
「優太、大切な話があるんだけど・・・」
母はあの時と同じ顔をしていた。

僕がまだ5年生の頃だった。
母は今回と同じ顔をして僕に、「お父さんとはお別れする事になったの」と言った。
やっとあの時の強烈な印象を忘れかけていた“あの顔”と同じ顔・・・
名字も生活も変わり、それでもこの3年でやっと静かな生活になっていた。
内向的な僕は、学校から帰ればゲームやテレビ三昧の時間で心に蓋をしていた日々。
また“あの顔”・・・
何を言うのだろう。

母は子供である僕から見ても美人だ。自分が母の子供である事が時々恥ずかしくなる。
友達も母に合えば必ず、「お前のお母さん美人だよなぁ?!」と決まって言うので、
きっと僕の目線だけでなく、普通に美人なのだと思う。
そんな母は大きな倉庫で事務員をしていて、職場の母の同僚女性も家に来れば、
「○○さんいつも見てるよ!」など、母のモテる話が多い。

その母が今回僕に言った事・・・
「再婚しようと思うの。職場で知り合った、まぁ、取引先の人なんだけど・・・」と、
僕に言って来た。
離婚した時もそうだったけど、そんな事に反対など出来ない。
母親が自分の気持ちをそのままぶつけて来るその気持ち、“NO”とは言えない。
「今週末、先方の“家族”と会って欲しいの」、さらに母は言った。
僕は「分かった」としか言えない。言わない。
ただ、“家族”という言葉に、結婚相手に子供がいるであろう事を感じ、
さらに気持ちが重くなった。
小学5年だった僕とは違う。中3の男にとって“新しい家族”とは重すぎる。
それでも一日ずつ近づき、週末はやって来た。


“きれいな身支度”を求められ、駅近くのホテルのレストランに母と出掛けた。
今日は好きなゲームの発売日だったのに、さすがにそれどころではなくなった。
レストランに入ると、母が名前を言ったのか、黒服の人に案内された。
案内された先、一番奥の通りを見下ろせる窓側席に二人は座っていた。
落ち着いた優しそうな中年男性と、その奥に中学生ぐらいの女の子・・・
僕はその女の子に目を奪われた・・・
本当に可愛い。“この世の物とは思えない”とはオーバーな表現に聞こえるかもしれないが、
普通には見た事のないレベルの可愛さだった。
テレビや雑誌に出て来るそこらの量産アイドルのセンタークラスなんか比にならない。

僕は奥に座らせられたが、正面にいるその子の顔を直視できない。
横の窓から入る光もあり、色白でクセのある髪をアレンジした優しく少し茶色い髪が、
まるでその子を天使のように見せてしまう・・・
最初は緊張を見せていたその子も、やがて笑顔を見せる様になり、
その笑顔もまた、全てを包み込むような笑顔だった。
僕には2年の時から大好きな憧れのクラスメイトがいた。学校のアイドル的存在。
“僕の頭の中の異性=学園のアイドル”はもう一年以上、大差で揺らぐ事など無かったが、
今日、一瞬にして、そして大差をつけて目の前にいる天使に支配された。
その食事の場は、むしろ僕に気を使う“天使”が大人で、僕だけ1人が外の様だった。
しかし聞いてみれば、その子はまだ中1。つまり、僕の2つ下と言う事になる。
地元の公立中学の僕とは違い、私立の付属中学に電車で通学している様だ。


結婚は決まった。
子供たちは反対など出来ないし、まぁ、否定する理由も特に無かった。
しかし、本当は僕が一番大きい影響を受ける事になる・・・
2学期に名字が変わる事になるし、何より、住む場所・環境が変わるわけだから。
裕福な暮らしなどとは遠くても、自由なゲーム三昧の日々も危ういと思ったし。

すぐに引っ越しも行われた。
二つ先の駅になっただけだが、閑静な住宅街の一軒家だった。
今までのアパートと比べてはいけないが、すごく広く感じてしまった。
二階の廊下も長く、庭も広い。大きなクルマも停まっている。
何より、母が幸せそうだ。
僕の部屋は“天使”の隣になった。物が少ないせいもあるが、異様に広い。
窓からの眺めも良い。勉強机の上に置いたゲーム類が寂しく見えた。


部屋の片づけをしているとドアをノックする音が聞こえた。
僕は「は~い!」と返事をした。静かにドアが開き、ちょこっと傾けた顔が見えた。
“天使”の顔だった。
「今日からお世話になります。お兄ちゃんって呼んで良いですか?!」と言った。
お世話になるのはこっちだったが、先に挨拶されてしまい、
「あっ、こちらこそ。宜しくお願いします・・・」と返事を返すのが精一杯だった。
中に入って来た彼女は上品なチェックのスカートを穿いていた。
「ゲーム好きなんですか?」と机の上を見た天使、いや新しい妹は言って来た。
僕は「うん」と言い、「ゲームやるの?」と聞き返したら、首を横に振った。

食事会の席で音楽が好きだと言っていたので、「どんな音楽を聴くの?」と質問した。
聞かなければよかった・・・
出て来るのはクラッシックであろう外人の名前ばかり。自分の恥を晒した。
この妹にして、この情けない僕が兄貴。自分と家族の前途に多難を感じた瞬間だった。
それでも、彼女の父親、いやっ、僕の父親になった人は普通の人で、
野球やサッカーなどのスポーツや、バラエティ番組が好きで、母親と話が合った。
僕も、趣味は違えど、少し安心出来たのだ。

妹・・・
そことの関係だけが不安と言うか、どうしたら仲良くなれるのだろうかと抱えていた。
まず、いまだに“ちゃん付け”でしか呼んでいない事もそのままになっていた。
それは食事の時、僕のそれに母が笑った。そして新しい父もその母の指摘に気付いた。
「確かに。妹にちゃん付けはおかしいな」と新しい父は言った。
妹本人も、“うんうん”と大人たちに同調して、笑いながら頷いている。
自分が何と呼ばれるのか、興味深々の笑顔で僕を見ている・・・

「美沙でいいの?」と、僕は照れ、下を見ながら大人たちに投げた。
妹の名前は美沙。4人の食卓に天使の様に微笑みを振りまく、妹の名前は美沙。
私立に通い、ピアノを習い、何かあれば、無くなった母親の仏壇に報告をする女の子。
僕の母に気を使い止めようとしたが、僕の母は、「そのままでいいよ!」と言った。
僕から見れば裕福な家庭に育ち、可愛く、性格までも良いとは・・・
“天使の妹”を持った“さえない兄”は複雑な気持ちに支配される。
それでも、半ば強引ではあるが、その食事から“美沙”と呼ぶようになった。


本当に可愛く自慢の妹とは言え、僕や僕の友人、妹や妹の友人とは世界が違う。
その後も家などで会えばすれ違いざま挨拶こそするが、交流は出来ない。
妹を一目でも見た友人は絶句する。僕の母を見た時の「美人だよな」の比ではない。
「本当に妹か?」「アイドルより可愛いな!」はお約束だった。
週末に母と都心に買い物に行けば、妹はよく芸能事務所の勧誘を受けるようだ。
本人にその気がないので、そこはスルーのようだが、母の方が勧めるぐらいで・・・
1年・2年と、“同居しながらすれ違い”の生活が続いていた。
やがて、僕は高3になり、美沙は高1になっていた。

高校に上がった美沙は、“天使の可愛さ”から、“綺麗”に差し掛かっている時期だった。
あの天使の微笑みは健在だったが、時折見せる、ドキッとする素っ気無い表情が、
あきらかに大人へと近づいている様に思えた。
僕は相変わらずさえない兄貴。受験勉強もだらだらとしていた。
まぁ、目指す先が始めから3流大学だったこともあったし。
美沙によく言われる「お兄ちゃん受験生なんだから!」の叱咤の声がとても好きだった。
そして美沙は音楽部に入り、相変わらずピアノに熱心だった。

美沙は同じ部活の一年先輩の男子に恋をした。
一緒に暮らし、大好きな美沙の心の動きは、両親よりもしっかり見えていた。
僕の大好きな美沙が、苦しんでいたり悩んでいたり・・・
でも、年上でありながら何も経験のない兄には何のアドバイスも出来ない。
血の繋がりのない兄が妹の抱える恋を見てせつなくなる。不思議な話だ。
食事に手が進まない美沙も見た。「ダイエットしようかな?!」と笑い部屋に行く。
でも、そんな夜には美沙はベッドに蹲って泣いている。
美沙の苦しみがこんなにも僕の苦しみになるなんて・・・
翌朝になれば美沙は笑顔で朝食のテーブルに現れる。美沙の顔を見るのが辛い。


時々分からなくなった。
自分が兄として愛おしいのか、それとも、男として好きなのか。
「美沙のことが大好きだ!」と間違えなく言えるのに・・・

やがて互いに大学生の生活になった。
完全なる美人女子大生となった美沙は大人の女性に変貌していた。
知的で清潔感溢れるのに、それでいてアンニュイな部分もどこかにあって・・・
僕はもう就職が近くなり、苦戦する状況の中で父のコネも視界に入れざるを得なかった。
母も自力では、ろくな会社には入れないだろうと感じていた様だ。
僕はその就職活動に苦しむ中、一緒に苦労する同じゼミの女の子と初めて付き合った。
こんな僕と付き合ってくれる、心優しい女性だった。
妹も大学に入ってから、僕の知る限り二人の男性と付き合っていると思う。
僕は“彼女”が出来ても、少しも美沙への“大好き”に変化は起きなかった。
むしろ、その妹愛に気付かれたのか、彼女と終わってしまった。


そして僕は社会人。美沙も数年遅れで就職した。
美沙の結婚は早かった。
就職して2年少しで、職場の同僚となった男と結婚した。そして家を出た。
僕と一緒に過ごした“天使”は“他人のモノ”となり、
一緒に過ごした時間は僕の大きな宝になり、そして大きな穴を作った。
時々家に帰る美沙の顔を見る度、本当に大好きだと実感する。
妹として存在し、妹だから一緒に暮らせた・・・

愛した妹・美沙。
愛する妹・美沙。
これからも変わらない。






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(妹 天使 純愛 恋 かわいい 中学 失恋)

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