「キスは浮気になりますか?」
社会人になって間もない頃だったかなぁ・・・
普段ナンパなどしないオレが、思い出したかの様にナンパする時がある。
仕事帰りだったり、休日のドライブ帰りだったり。
グループがグループに仕掛けるナンパと違い、一人対一人のナンパは難しい。
“その手のお姉さん”へのアプローチならまた別の話かもしれないが。
普通の男が普通の女に仕掛けるナンパ。それも夜の生活道路で。
駅前や繁華街はする方もされる方もその気。そして答えも早い。
お互いの身なりや性格も含めて分かり易いし、その行き先までもが分かり易い。
でも、そうでないナンパにはそうでない行く先があったりする。
それは・・・
本来ならナンパされないタイプの女性であったり、
本来ならナンパしないタイプの男であったり、
本来ならいるはずのない車の中で時を過ごしているのだから。
楽しい会話だけで終わる事もある。
それからも友達の様な関係になり、長期の付き合いになる事もある。
恐ろしいほど自然に求め合う事になる事もある。
でも経験上、意外とそんな女性とは一度きりの関係で終わる事が多い。
ナンパする場所がどこか?
駅にしても繁華街にしても、それが自宅や自分の生活域から離れていると、
人は“そんな顔(気持ち)”でいたりする。まぁよそ行きの顔とでも言うか。
しかし地元・生活圏にいて、自宅に帰る寸前とかデート帰りとか・・・
きっと友人や恋人との時間を引きずっていながらも、元の自分に戻ろうとしている。
そんな場面の女性と時間を過ごすほど、その素顔に近いであろう魅力を感じる。
“さっきまで友人の前ではしゃいで見せていた顔・恋人の前で甘えていた顔”
余韻を残しながらも、今、目の前にいるその横顔には違う色気を見せる。
知らない男の助手席にいる緊張感、そんな男の隣にいる罪悪感。
何より、もう少しでありのままな自分に戻ろうとしていた間際の顔だ。
そんな時、時に大胆だったり、そして正直だったりする。
彼氏への不満は少ない言葉数で言う。
自分の恋愛経験や性体験へもクールな言葉を並べて客観的だ。
何より、自分がどうしたいのかにも正直だ。
知らない男の車に乗り込む事は、ある意味一つのハードルを越えている。
しかし先程も言った様に、ここは駅でも繁華街でもないし何より、
ナンパなどしなさそうな男とナンパのイメージに距離感を感じさせる女。
そしてナンパなど意識にない場所。
ナンパがそのままセックスにしか結びつかない二人もいれば、
ただコーヒーを楽しむ時間だけでも成立する二人もいる。
入口の可能性はそのまま、二人の関係も自由度も広げてくれる。
男と女の間でセックスはとても重要だと思うし、ナンパにその要素は大きいと思う。
しかしセックスは快楽の達成には分かり易い近道だが、奥行きに乏しい。
性的なバリエーションやプレイ心理的なものまで、その方向の奥行きは否定しない。
でも、どうしてもセックスの回には同居出来ない固有の魅力が隠れてしまう。
それはどんなに仲が良くなってもセックスが日常化しても同居出来ない・・・
セックスをしない事に意味があるのでなく、きっとそれが違う場所にあるだけに思う。
念を押すが、体が結ばれる事は大きな目的の一つだし確かに快楽に重要で否定できない。
気になる女性を前にした時、そこに何を求めるのかと言うこと。
体全体から溢れだす魅力を前に交わる事しか考えさせないぐらい強烈な女性もいれば、
ただただその女性と話しているだけで楽しい事もあり、これも嘘ではない。
また、何が魅力なのかが最後まで分からないままなのに、長く関係が続く事もある。
自分が持っている物と相手が持っている物が交わる時にそこに生まれるモノ。
それは快感かもしれないし、言葉では表せない何かなのかもしれない。
でも、どうしても肉体に依存しやすくなってしまう。
それだけが確かな様な、そこには真実がある様な気がしてしまう事も・・・
ナンパは不自然な出会いであり、強制的出会いだ。
しかし最初の目的(片側)はハッキリしていて直観的だ。
そして多少は引きもあるだろうが、目的を晒した相手を受け入れるか否か、
それも分かり易い部分でもある。
男が最初に自分が一緒に過ごしてみたい女に対し、その目的を隠さずに飛び込む。
女はその目的をはっきり自分に向けて来た男を振り分けるだけ。
女のストライクゾーンは思うより狭く、そして広い。
一球目の判定でゾーンを狭くしてしまうと、もう自分のペースにはなり難い。
ゾーンよりもむしろ、バットの“振る気”の方が遥かに大切なのだが・・・
話しだけの時間を過ごした女性。カラダだけの時間を過ごした女性。
飲みに行ったりカラオケに行ったり、体の関係を含めて続いた女性もいた。
そんな中、“キスだけの女性”もいた。
あの遊んでいた時期、女性たちの中では一番鮮明に記憶のある女性。
音楽科の大学生でピアノの指導アルバイトをしていると言っていた。
縛ってまとめた髪と黒いニットには知性と清潔感があった。
素朴な笑顔で人当たりも良く、“夜のナンパ”には無縁の女性にも見えた。
オレには当時年上の彼女がいたが、彼女も彼氏とのデート帰りとの事だった。
そんなに必死に落としたつもりはない。
自然にクルマに乗ってくれた感じだった。
後から理由も聞いた。確か、
“信用出来そうだった”とか“いい感じだった”とか言ってくれた記憶がある。
しっかりした性格と、ハキハキしていて社会人でももう通用しそうな知的な大学生。
大人しくも黒いニットの彼女を助手席に見れば、胸の形も綺麗だった。
通り沿いの公園横に車を止めた。確か22時ぐらいでもう車は少ないし。
彼女にキスをしながらシートをやや倒すと、“ダメっ!”とは言ったと思う・・・
でも、彼女はオレのキスにしっかり応じた。
と言うか、むしろ彼女の方が積極的に唇を重ねて来た。
その時初めてキスの恐ろしさを知った気がする。良い意味での。
彼女の唇は本当に薄くて、唇の位置を探すのに苦労するほどだった。
今でももの凄くリアルなイメージが残っている。
桁違いにスベスベしていて、細く薄いはずの唇から伝わる印象が、
そのまま脳の奥にまで刺激を送って来た。いっそう唇を求めさせる。
胸に触れたが、“ダメっ!”彼女はそう言って再び薄い唇でありながら本当に熱いキスを、
こちらに向けて送り込んでくる・・・
再び胸を触り、さらにシートをより倒そうとするが、それへは必死で抵抗する。
なのに、キスだけは全く抵抗するどころか、恐ろしいほど熱いキスを続けてくる。
オレが強引に彼女のニットを途中まで捲ったが、結局は胸さえ開けないまま終わった。
今でもあれ以上のキスの経験はない。
キスが上手い女性はそこそこいるし、感触の良い女性もいるんだけど・・・
キスだけで虜にされた気がした。
“感触いい唇ですね。キスしたくなる唇だと思う・・・”
彼女はそう言ってくれた。元々彼女は“キスが大好き”らしいが・・・
結局彼女とはキスだけの関係だった。
音楽科の女子大生と薄くも激しく熱いキスのコントラストが効果絶大で。
その先を狙ってみたけれど、彼女はキスと裏腹、身持ちは堅かった。
キスが大好きでキスだけを求め許しながらも、彼女は彼氏との関係を普通に続けた。
一方、こちらはその浮気心への後ろめたさも抱え、
結局は大切にすべき年上の彼女との別れに繋がってしまった。
唇の主はキスが大好きと公言し、夜に知らない男の車に乗りキスを許しても、
“それは浮気ではない”と揺れる事はなかった。
オレは潰れた。
自分から誘い、自分の意志で浮気をしている様でいて、
キスに踊らされ虜にされ、そして“キスだけに溺れた自分”を許せなくなり・・・
キスの主に聴いた事がある、“キスは浮気にならないの?”と。
いつも笑いながら、“(小さく縦に首を振り)うん、ならない!”それだけ返した。
もちろん、キスが浮気になるかどうかなんてそもそもナンセンス。
シチュエーションも価値も、そこにいる人間が千差万別なのだから・・・
結局、オレは彼女のキスの前に虜にされ気持ちまで奪われたが、彼女は違った。
それだけの事。
でもせっかくもらった痛みを伴った教訓だったから大切にした。
セックスや気持ちとはまた別の括りとして、キスはとても大切で恐ろしい事。
きっとあれ以降のオレは別物になったと自分でも思っている。
でも一度だけその後に、それも偶々ナンパした遥か年下の女の子に言われた事がある。
「あなたとキスしてるとどうしようもない気持ちになる。全て奪われそうになる」
“少しやり過ぎてるかな”なんて反省したり・・・
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