「午前2時の女神」
交通事故で足を悪くしたのは3年前。
医者からは、
「レントゲン上では完治しているのですが・・・」
その言葉が繰り返される様になったので、俺は通院をやめた。
しかし今でも痛んでいる。痛みで眠れない夜もある。
そんな状況で落ち込んでいた時だった・・・
親戚のおばさんが”湯治”を薦めてくれたのは。
関節痛などへの効能で人気の温泉らしいが、そんな期待より、
自分の痛みを理解してもらえない環境から逃げたかった。
交通事故の後に職場での関係もギクシャクしてしまい、
事実上戦力外となった俺は閑散職場に飛ばされていたし、
俺が長期休暇を申請しても、誰にも迷惑はかからない。
まだ30代だと言うのに、もう何処か終わった気分でもいた。
他人から見れば”足を少し悪くしただけ”なのだろうが、
その事は俺の状況を大きく変えてしまった。
”湯治”
行く先は有名温泉地ではあるが、
名前も知られていない民宿を少し大きくした程度の旅館だ。
HPを見れば、建物ももう古くなっている事がすぐに分かる。
それでも、そんな鄙びた宿が俺にはお似合いだ。
俺は1週間の予定で、一人にしては少し多めの荷物を積んで、
一人気まま、その温泉宿に向かった。
温泉街の建物が連なる中に紛れて建っているその宿。
入口が狭いので、民家と間違ってしまいそうだ。
湯治が中心で、しかも人の少ない時期らしく、
駐車場の車も数台。それも関係者なのかもしれない。
下足箱も数える程しか使われておらず、
女将に案内された部屋までの廊下にも人気はない。
古い扉。そして歴史を感じる一人には広過ぎる畳部屋。
俺は荷物を置いてすぐに買い物に出掛けた。
玄関には子供がいて、少しするとその母親らしき女性も。
どうやらこの宿の家族らしい。
後から紹介されたが、一応は”若女将”との事だ。
どうみても普通のお母さんだし、物静かな人だった。
一週間とは言え、食事は全部自分で支度する事になる。
外食も良いが、それだけでは飽きるし湯治っぽくない。
朝食や雨の日の外出の事も考えて、チルド食品やレトルト御飯、
飲料水やアルコールなどを買い揃えて帰った。
食器類や料理器具は全て揃っている。
食事以外にやる事はひたすら入浴って事だ。
館内に人が全くいないせいなのか、風呂は男性用のみ。
それを時間別に交互に使っているようだが・・・
まぁ、きっと宿泊者は数人しかいないのだろうから問題はない。
風呂は1階よりも少し下がったところにある。廊下も暗い。
しかしいざ入ってみると、浴室は小ぎれいだし、
小さいが露天風呂の景色もなかなかだ。温度もちょうど良い。
これなら何とか1週間の湯治ライフも行けそうだ。
夕食時、俺が調理室で弁当類を温めていると、
やっと一人お婆さんがやって来た。
「どこからいらしたの?」「いつまでいらっしゃるの?」
「ここにあるものは自由に使っていいのよ」
そんな会話を数分間していたと思う。
誰もいないと、こんなお婆さんでも楽しく話せるものだ・・・
温めた食事をテレビを見ながら、静かに食べた。
夕食後も勿論やる事と言えば入浴のみ。
着替えとタオル、そして洗濯用の洗剤も持って風呂へ向かった。
途中で若女将親子とすれ違い、
「お洗濯ですか?」「場所わかりますか?」と尋ねられたが、
昼間のうちに女将に教えられていたので、それを伝えた。
真っ暗になってからの露天風呂も悪くない。
少しだけ山の輪郭が見えて、そして町の灯りと・・・
昼間も入ったので、簡単に入浴を済ませて洗濯に向かった。
静かな宿。静かな夜。これからしばらくはこんな時間。
二日目からは散歩・散策、そして買い物。
それほど広くない町はすぐに頭の中に入った。
宿の近くのラーメン屋が期待に反して美味しかったので、
帰るまでにもう一回は来ようとか、そんな楽しみも見つけた。
二日目の夜、男女入れ替えのぎりぎりの時間に風呂に行くと、
風呂から女将とお孫さんが出てきた。
まぁ小さな宿だから、宿の御家族も利用しているのは・・・
それにしてもまだ早い時間だったから、これも面白い。
大手の宿だったら考えられないだろう。
仮にスタッフが使うとしても、それは深夜になってから。
何ともローカルな時間が過ぎる・・・
そして3日目は車で観光に出掛けた。
名物を口に入れたり、知り合いへの土産も物色した。
美味しいツマミを手に入れたので、その日は酒の量が増えた。
飲み過ぎて22時前に布団に倒れてしまったが、
目を覚ますと時間は深夜1時を回ったところだった。
やる事もないし、寝しなの入浴もしていなかったので、
俺は風呂に入る事にした。入浴は夜中もOKなので。
ただですら人がいないが、階段も廊下も真っ暗。
風呂場に向かう途中も最低限の明かりしかついていない状態。
電気が消されていたので自分でつけ、静まり返った風呂に入る。
扉を開ければ、深夜の透き通るような空が広がる露天風呂だ。
星がきれいだし、本当に静かだ。
低めの温度のせいでゆっくりと風呂に入れる。
しばらくすると脱衣場に人影が見えた。
この時間も一応男性の入浴時間だが、宿の主人だろうか・・・
俺はこんな時間に入っているのが少し不自然に思われると思い、
恥ずかしい気持ちもあって、夜景を見ていた。
内湯からはお湯が流れる音・桶の置かれる音が響いていた。
少しして、「御一緒してよろしいですか?」と声が聞こえた。
振り向きながらその声に驚いた。若女将だ。
宿の若女将なんて雰囲気は全くなくて、か細い声の大人しい人。
その若女将が静かに露天風呂に入って来た・・・
小さな宿の小さな露天風呂。無理すれば5人入れるかの感じの。
タオルで隠していたが、湯船には外して入った。
「眠れませんか? 何もない宿ですから・・・」
若女将は静かな声で発し、そして静かに顔を落とす。
「いやっ、少しお酒飲み過ぎちゃって・・・」
俺は自分でも明らかに焦った感じになっているのが分かった。
少し世間話をしていたが、何を話したか覚えていない。
俺は先に上がろうとした。
すると若女将は、
「お体、流させて頂けませんか?!」と言って来た。
既に湯船から上がっていた俺を追って、
「遠慮しないで下さい。何もない宿なんでこれぐらいしか・・」
そう言って若女将もタオルをつけて、一緒に内風呂に入った。
「遠慮しないで下さい」
そう言いながら洗い場に積み上げて整頓されていた椅子を置き、
洗面器にお湯を張り始めた。
「どうぞ座って下さい」
俺はそのか細い言葉に誘われる様に、そこに腰を下ろした。
若女将は自分の体を隠したタイルを外し、それを桶で濯ぎ、
俺の背中を洗い始めた。
目の前の少し曇った鏡には、ほっそりとした若女将の裸が映る。
「寒くないですか?」と俺にシャワーをかけながら洗ってくれ、
鏡越しに自分の裸体を晒している事など考えない様に、
一生懸命俺の体を洗ってくれる・・・
肩・腕、太腿・足・・・
「立ち上がって頂けますか・・・」
若女将は俺の顔を見る事なく、俺にそう告げた。
これはどんな意味なのか。どこまで覚悟しているのか。
それでも、そんな事を考えながらも俺は立ち上がった。
彼女は怯む事なく、立ち上がって俺の胸元を洗い、
一度タオルを濯いだ後、今度はしゃがんで尻を洗い・・・
俺はもう、大きくしていた。
もちろん彼女は知っている。目の前にあるのだから。
「洗っていいですか?」
俺の顔を見上げ、股間をタオルで洗った後、
手にボディソープをつけて、素手で洗ってくれた。
その手は大切なものを洗うように丁寧に優しく。
「座って下さい」
一度全身を流し、体が冷えない様に気遣ってくれる。
今度は椅子を下げ俺に足を伸ばさせ、足先・指先を丁寧に洗う。
何故そこまで丁寧に、そして優しく出来るのか・・・
ほっそりした体を震わせながら、彼女は一生懸命洗った。
その姿を見ていた俺は、彼女にシャワーをかけた。
そして彼女の肌に触れた。
冷たくなっている。こんなに体を冷やしてまで・・・
俺は抱きしめた。
しかし彼女は、「私は大丈夫ですから」、そう言って、
俺からシャワーを戻させ、俺にかけた。
俺はもう一度彼女からシャワーを奪い、
「もういいよ、一緒に温まろう!」と言い、
彼女を露天風呂に連れ出した。
「あったかい・・・」
彼女は首まで浸かって、俺に微笑んだ。
俺は彼女の正面に向き、湯船の淵に彼女を追い込んだ。
抱きしめようとすると、
「ダメです。私なんかダメですっ」と弱く言う・・・
彼女の顎を持ち、「何で? 何でダメなの?!」そう言うと、
とても困った顔をして言葉を無くした。
俺は強引に彼女を抱きしめた。
本当にか弱い体。愛おしくなるような体。
彼女は俺を見つめた。俺は堪らずにキスをした。
「ダメ・・・ ですっ・・・」
俺が体勢を変えようとした時、無理な姿勢になり、
思わず「痛っ!」と足の痛みで声を発した時に彼女は、
「無理しないで下さい。足、痛められてるんですよね」
そう言って、俺の脚を優しく擦ってくれた。
「ダメです。無理しないで下さい!」と恐れる彼女を、
俺は自分の膝の上に乗せ、思い切り抱きしめキスをした。
彼女は静かに瞳を閉じて、俺のキスを受け入れてくれた。
しかしタイミングが悪い事に、近くを救急車が通り、
彼女は、
「家族が目を覚ましてしまうので・・・」
「もし・・・ また同じ時間で・・・」
そう言い残し、彼女は去って行ってしまった。
俺は湯船に深く沈み、ついさっきまで流れた余韻に浸っていた。
脱衣場に上がった頃には3時半前だった。
実は次の日には、彼女は実家に行っていた様で会えなかった。
それでもその次の日、午前2時前・・・
浴室には彼女の姿があった。
露天風呂で彼女と色々話した。
半ば強制的に年の離れた夫とお見合いで結婚させられた事。
そして、結婚前からずっと夫には女がいる事も。
でも彼女はそれらの理由で夫を裏切っているわけではない。
体の弱い子供の面倒すら何もせず、遊びばかりの夫が許せない。
そして、もう廃業を目の前にして女将任せの夫に失望していた。
夜中の風呂は、彼女の特別な時間らしい。
普通の恋愛すら許されなかった彼女は、いつか、
自分が本当に許しても良い人に会ったなら、
深夜のこの空の下で心と体を曝け出す覚悟をしていたらしい。
俺は思い切って部屋に誘った。
しかし、彼女は縦に首を振らない。
”どうしても部屋には行けない”
それが彼女を抑えていた。
そしてその日もそんな中途半端なまま過ぎてしまった。
俺は残り二日になってしまった焦りもあり、覚悟を決めた。
彼女が今日も同じ時間に来てくれたなら・・・
彼女は来た。星空の下にある露天風呂に。
俺はキスを。そして抱きしめ、そして・・・
静かに湯船のわきに彼女を寝かせた。
優しさに溢れる彼女の顔を眺め、そして乳房に触れ。
彼女の全身を撫でた。そして体中をキスした。
俺が彼女の中に入った時、彼女から吐息が漏れた。
彼女の優しい手が背中で感じられた時、
俺は”これで良かった”と強く感じた。
彼女の下腹部に俺の精液が広がった時、彼女は優しく微笑んだ。
「幸せな気持ちになれました。ありがとう・・・」
今度は彼女の方から俺を抱きしめ、そしてキスをくれた。
最終日の夜。
彼女を部屋で抱いた。
彼女が最後まで抵抗を感じていた客室で。
俺に全てを見せてくれた。体。心。
彼女は泳ぎ、大きな海へ飛び出した様だった。
俺では少し役不足だったと思うけど、必死に愛した。
彼女が大切に優しく洗ってくれたように・・・
その後、宿は閉鎖したようだ。
もうHPも無くなっている。
勿論、俺の記憶から消える事などないのだが。
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