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「破 壊」





元カノ、その所有権、そしてその有効期限とは・・・



自分に別れた事を後悔する時が来るとは思っていなかった。
と言うか、そんな風に思わせる女と出逢う事など考えようとはしなかった俺。
好きで付き合うにしても、“愛させられる”なんてあり得ない。
俺はいつでもプライドが高かった。本当の事を言えば怖かった、
自分が相手に翻弄され、最悪、相手に縋りつくようになるなんて・・・

好きなまま、俺は好きなまま彼女と別れた。俺から別れた。
彼女は落ち込み連日泣いていたようだ、共通の友人からそれを聞いていたし、
彼女の人柄ゆえ、俺は沢山の彼女の友人という敵を作った。
当たり前だと思う。天使・女神・聖母・聖女、懐深く大きな愛で包んでくれる女性の比喩、
そんな言葉たちが似合う彼女に愛されながら、誰もが羨ましむ中で俺から別れたのだから。
きっと違和感を感じていた。彼女の穢れなき姿、その隣は荷が重かったのだろう。
7つも年上でありながら少女のような心を持ち、人を疑わず責めず・・・
彼女を嫌う人間を見た事がない。そんな人物だ。
俺は彼女から離れ、そしてある意味予想通り転落して行く。
彼女より美人と付き合い、若い体と交わり快楽を貪った。
だが、それは予想通り、結果的には彼女と別れて空いた空白を埋める為のものでしかない。
上辺だけの女・欲深い女とばかり交わるようになれば、その転落は加速する。
いつしか周りには渇いた連中ばかりになっていた。
何より、その代表が自分自身とは・・・

彼女と別れて半年過ぎた頃、俺は久しぶりに彼女の親友に会った。
「朱里(あかり・元カノ)彼氏出来たんだよ。すっごい良い人で、結婚決まったって」
“俺に対してのあて付け・皮肉”
そんな風に思っていたし、その場は別に何も思わないまま後にしたのだが・・・
たった一発、そのたった一発の何でもないと思っていたボデーブローは意外に効いた。
日に日に彼女への思いが膨らんで行く、それが止められない。
朱里への想い、そして快楽より先へ行けない、見つからない諦めがストレスとなって。
俺は今後、朱里ほどいい女と巡り合えない。
間違いなく幸せな未来を逃し、そしてこれから先に後悔の時間が永遠と続く・・・
耐えられない。そんな事、絶対に耐えられない。
俺はプライドとして自分が壊れる姿を誰にも見せられない。自分の負けの姿。
いつしか自分の負けでなく、相手の勝ちを無いものにしようと考えていた男のプライド。
朱里は俺を大好きだと言った。“永遠”とも言った。
別れてしまったとしても、そんなに簡単に“永遠”を無くす女だと言うのか?!
自分を賭けてみたくなった、そして全てを委ねてみたくなった。


数日考え、俺は女遊びを重ねていた悪友を連れて行動に移す。
二択だ。
“結婚を選んだが、それは諦めで本当は今でも俺を愛している”
そして、
“もう俺への気持ちは残っていない。新しい男こそすべてになっている”
そのどちらか。
前者なら朱里を抱きしめ俺は割り込む、その男から朱里を奪い朱里と結婚する。
後者なら・・・
そう後者なら・・・  それが悪友を連れ立つ意味だ。
俺は自分の力で呪縛から抜け出せない、朱里のそれを壊す事でしか。

朱里が一人暮らす想い出の残ったままの懐かしいワンルーム、
俺はまず一人、その部屋の懐かしい呼び鈴を鳴らした。
懐かしい顔。まだ1年も過ぎていないと言うのに・・・
離れた時間のせい? 少し変わって見える。さらに大人の女性に、いい女の顔。
「どうしたの?」
優しい彼女の、包み込むような優しさ溢れる彼女の、でも、
たった一瞬だけ、ほんの瞬間的に見せた引きつった表情。
元カレが突然訪ねて来る、それも結婚を決めた彼氏がいる状況だ。
きっとそれが自然なのだろう。でも、まだ1年経っていない、この部屋、
そうこの部屋で愛し合っていた日々、朱里の言った“永遠”は嘘だったと言うのか。
外は雨が降っている、冷たい雨だ。
彼女の言葉は・・・
「困るなぁ・・・  突然来られても困るよぉ。私ねぇ・・・」
きっと俺も分かっていた。そんな結果を分かっていたはず。
“後者”となった。

自分の圧が一気に降下したのが分かった。怖いほど冷静になった。
「悪い、トイレ貸してくんない。悪いと思ったんだけど雨でさぁ・・・」
“力で押せば断れない”
それが朱里の性格だ。お前がそんな人間だって事、俺は誰よりも知っている。
ただ俺は・・・  そんなお前が1年足らずで他の男とゴールインする事が許せない。
俺を愛したお前が、そしてそんなお前を簡単に手に入れ幸せを保証される男を。
予想通り“仕方なく”トイレを貸してくれた。つまり俺を部屋の中に入れた。
懐かしい、あのフローリングの上で愛し合った事もある、そしてこの匂い・・・
でも、ところどころ違っている。当然だろうが置物・飾り物、
“こんな趣味があったのか?”と思わせるような品々もチラホラと置いてある。
男が変われば・・・  そう、朱里は今も朱里だが、確かに男が違うんだ。
俺のトイレを気遣って朱里はテレビの前に消えた。
ある、相変わらずある、キッチンテーブルの上に飲みかけのコーヒーが。
朱里はコーヒー人だ。一日中コーヒーを切らさないほど愛してやまない。
変わっていない。
ごめん朱里、その変わらないお前の大好きなコーヒーを使わせてもらうな。
一包、少ない量の白い粉を飲みかけのその中に。

トイレに時間をかけた。
「大丈夫?」
朱里にそう言われるほどに時間をかけた。
運はこちらに味方したのか、早々にコーヒーを飲み干していた。
二人の時間は消えていない。お前は大きな場面の後、必ずコーヒーを口にする。
元カレが突然訪ねて来て、そして目の前のトイレの中にいる。
平常心などあり得ない。そうだよな、変わらずお前はコーヒーに手を伸ばした。
後は・・・  少し時間が欲しい。
即効性とは言ってもそんなに早くは効かない。それに眠りにつくタイプではない。
あと少し時間が欲しい・・・
「幸せなのか?  聞いたよ、結婚するんだって?!  おめでとう・・・」
自分でもそんな言葉が出て来るとは思っていなかった。
でもそれが意外に良かったのか、そこから会話が生まれた。
「うん、結婚する。 幸せになるよ。 すごく良い人なのよ。
    あなたとは別人かな。動物みたいでのんびりしてるけど、温かい人」
当時感じていた年の差より、むしろ彼女だけ大人を進んだ感じがした。
近づくどころか、むしろ自分が未熟にさえ感じられ熱くなった瞬間。
少し心揺れた瞬間だったが、数秒、彼女の様子に変化が出て来た。
突然虚ろな表情をしたり、立っているのが辛そうによろけたり・・・
その間隔はすぐに狭まり、そして、
「ねぇ、何か入れた?  入れてないよねぇ・・・」
そう言ってソファーのある場所までヨロヨロと歩き、そしてソファーに倒れ込んだ。

“ふぅ~ ・・・”
自分のため息の意味、そしてどこか踏ん切りがつけたかったのだろう、
俺は目の前で少し蹲った姿勢になった彼女を眺めながらスマホで悪友に電話する。
「準備出来たよ。俺の元カノ、見に来なよ。結婚前のカラダ、喜ばしてやって!」
そう言って電話を切れば、俺の声が聞こえているのだろう、
意識が朦朧としているであろう中、
「何?  えっ、 どういう・・  事な・の、 えっ、 何 な の ・ ・ 」
薄く目を開けたような表情で俺を見ようとしているが、
きっと頭の中がグルグル回っているのだろう、それが彼女の表情でわかる。
「あいつが来る前に先に・・・」
俺はソファーに不安定に座る朱里の髪を寄せ、そして頬を包んでキスをした。
変わらない、これだ、この感触、まったく変わっていないのに・・・
一瞬スムーズに口が重なり、そして僅かな時間ながら停止時間が感じられた。
でもそれは許されないもの。
「やめて!  何してるの?!  もう私たち終わったじゃない!!」
ほんの少し前にあれだけ酩酊していたはずの朱里、
それが俺のキスを止めようと、そして新しい男との未来の為に突き離そうとしたのだ。
はっきりと精一杯婚前の自分を守ろうとしている、口調まで明瞭になって・・・

守りたい物、そして俺という元カレはその邪魔となるもの、
朱里のしっかりしたその態度が俺にスイッチを入れた。
見事にそのタイミングでヤツが登場してくる。
呼び鈴が鳴る。ヤツを迎えるのは俺だ、家主をソファーに残して。
「よく上手くいったなぁ!  お見事、外寒いからさぁ~」
そしてヤツは中に進みソファーの上に座る朱里を見て言う、
「へぇ~  もっとおばさんかと思ってたけど若いじゃん。かわいい感じだし。
    本当にしていいのかよ?  元カノなんだろ?!  遠慮しないよ」
そんな言葉も完全に聞こえている。
朱里は顔をしかめ、体が思うようにならないはずなのに必死で俺たちを睨もうとする。
付き合った時代の朱里に見た事のない、男を威嚇する表情。
俺は朱里の性格・心の中を知っている、だから悔しい。
自分に似合わないキャラクターを必死にやっている、大切な彼氏との未来の為に。
「脱がすぞ!  写真も撮ろう」
大切な宝物であった朱里を前にそんな事を言っている自分が恐ろしかった。

ヤツはお構いなしだ、さっさと遠慮なく朱里に抱きつき押さえ込む。
俺は一瞬朱里への想いに怯んだが、自分を取り戻し朱里の腕を押さえる。
セーターを捲り上げながらシャツの上から朱里の胸を楽しむヤツ。
「おっきぃぃ~  これDどころじゃないだろ?  Eか? F??
   やわらけぇ~なぁ~   大人の女って感じすんなぁ。 いい匂いだしなぁ」
ほんの少し前に愛した女が自分の目の前で脱がされて行く、卑猥な言葉を添えられ。
それも俺はそれに協力している。
シャツを開かれ、朱里のブラが広がった。見覚えのあるブラ。
“この色お気に入りなんだ”と言っていた濃紺のサテン地のブラ。
朱里は必ず上下お揃いで着ける、下も濃紺だろう。
俺がブラがはだけた状態の朱里を羽交い絞めにしている間に、
ヤツは朱里のパンツを脱がせる。それも破れる音がするほど強引で力ずく。
予想通り濃紺サテン地の上下セットで着けている。
昔から好きだったが、朱里は小柄なくせに胸が大きくウエストがくびれ、
そして長く伸びた脚がスラットして美しい。
温厚でおっとりしたエロスを感じさせない性格のくせに、脱がせると刺激的なタイプだ。

「おおぉ!!  いいねぇ~  こんなの頂けるなんて最高っ!」
ヤツは大喜びで騒ぎ、そして露骨にショーツの上から陰部を掴む。
剥き出しになっているブラに収まった乳房は深い谷間を作っているし、
ソファーに横にされたスラット伸びた脚を通して見上げたなら最高の景色だろう。
ヤツの笑顔が恐ろしい程にそれを物語っている。
ショーツの上から顔を埋め、そこに薫る匂いを楽しんでいるのかヤツは・・・
顔を埋めたまま必死に手を後ろに回し朱里のヒップを掴もうとしている。
上にいる俺は朱里のブラを捲り上げた。
“相変わらず大きいな・・・”
俺の心の声だ。久しぶりに見る朱里の胸。やわらかさがそのまま伝わってくる胸だ。
後ろから抱えるように手を伸ばし鷲掴みした、手の中に収めるようにしっかり。
そう、これだ、これが朱里の胸だ。この感触が男を安心させる。
朱里の胸、体温、匂い、男を包み込むような魔法を持っている。
俺は離れた時間を確かめるように朱里の胸を必死で掴み、そして揉んだ。
数えきれない程に体を重ね、この胸も当然のように揉み続けたあの頃。
こんな凄い魅力を感じ取れていなかった自分が悲しい。
首筋にキスをし、そして頬に、そして・・・

ヤツがショーツを脱がせ朱里に入り込んだ時には俺は朱里から離れていた。
離れた場所でヤツに抱かれる朱里を見ていた、自然に。
朱里の唇・・・
朱里の胸・・・
朱里・・・
ヤツに全てを奪われている朱里が俺の目の前に。
その大きな胸も当然のように掴んで揉まれ、恋人以上に激しいキスをされている。
終わった。
終わったよ、朱里。
お前は次の男に抱かれた、そして今、また別の男にまで・・・
終わったよ。
愚かにして、でも他人に抱かれる朱里の美しい姿。
「写真撮ってくれよ!」
ヤツに頼まれてヤツのスマホで朱里が抱かれるところを撮らされた俺。
滑稽だ。
だけど・・・
この言いようのない美しさはなんなんだ。
もう結婚を決意した熟した女、そんな女が元カレの前で抱かれている姿。
それがこんなに美しくてどうするんだ。

俺は必死で写真を撮った。
ヤツに鷲掴みされ揉まれるマシュマロのような胸が美しい。
窪みながらも柔らかく舞う腹部の肉の揺れがまた美しい。
そして・・・
見ず知らずの男に元カレの前で抱かれる、それでも恋人を思って苦しむその表情の顔、
それが恐ろしい程に美しい。


俺は見事に朱里の未来を奪った。優しく大らかな女とそれをも包む男、
そんな幸せが完全に保証されたような二人の未来を奪ってみせた。
朱里を知ってから、今、一番朱里の価値を知ったと言うのに・・・
俺は朱里にとって一番不要な人間になってしまった。



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テーマ : 読み切り短編官能小説(リアル系)
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