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「愛しのエクレア」





「このブラ、似合ってますか?」
恥ずかしそうに顔を赤め、伏し目がちに彼女が聞いて来る。
同じベッドにいても距離はまだまだ縮まっていないようだ。
愛おしいこの想いだけは膨らむばかりなのに・・・


お互いに自分たちの住む最寄り駅を通り越して、
通学・通勤で使っている側とは反対側のターミナル駅、そこに近いホテルにいる。
彼女の通う大学の友人にバレても困る。また、私の会社の同僚にはなお更のこと。
そして何より、お互いの家族にバレてしまう事だけはあり得ない、あってはならない。
彼女は普通の大学生だ。女子大に通い、コンフェクショナリーでバイトしている。
私は・・・  普通のサラリーマンだ。結婚して家族も持った・・・
そう、いけない事をしている自覚は持っている。
妻も家族も愛している。大切だ。
仕事も今は順調だし、家族といる時間もとても幸せな時間だと感じている。
でも・・・
自分の罪深さに時々押し殺されそうになるが、どうしても彼女と離れる事はできない。
もう、もしも彼女が目の前から消えたなら自分が壊れそうなぐらい彼女を愛してしまった。
溺愛だ。ストーカーにさえなってしまうかもしれないぐらい自分が怖い。
親子ほど離れた、そう、本当に親子ほど離れたそのものの私たち。
娘の長年の親友である彼女と結ばれてしまった。

彼女の事は娘の中学時代、つまり彼女が中学生だった“あの頃”から知っている。
それは今も変わらないが、本当に清々しくて、いつでも気持ちいい女の子だった。
娘が軽い虐めにあっていて、何度となく不登校になりそうだった時も、
彼女はずっと娘の側にいてくれたし、ただただ包み込むような晴れやかな笑顔をくれた。
娘は勿論、私たち夫婦にしたって、そんな彼女に、どんなに勇気づけられた事だろうか・・・
彼女はテニス部で、短い髪、真っ黒に日焼けした顔、見せる笑顔・真っ白な歯、
いつでも太陽の匂いをさせる様な、本当に健康的な子だった。
高校は娘と同じ高校だったが別のクラスになり、そして別々の大学に進んだ。
でも、それからも彼女は娘とはよく会っていたようだ。
中学の頃の様に家に遊びに来てくれる事もなくなり、
娘の話から名前を聞くだけになっていた彼女。
そんな彼女と再会したのが半年前だった。私が所用で出た取引先の近くで偶然に・・・
部下が取引先の担当者に大きな迷惑を掛けた事もあり、簡単な物でもと立ち寄った店。
普通にショーケースの中を眺め、少し迷っていたその時だった。
「エクレアっ、 エクレアがお好きなんじゃないですか?!(笑)」
ショーケースから離れ、視線を上げると店員の女性が微笑んで私を見ている・・・
まったく誰かわかるはずもないし、少し“失礼な人だなぁ”とも思った瞬間でもあった。
“エクレア”・・・
何秒時間があっただろう。どうしてエクレアが出て来ているのか、
私がその不自然さに気付くまで何秒彼女を見ていただろう。その顔を・・・
頭の中は必死で手掛かりを探すが、エアポケット、何も繋がらない。
笑顔、そしてその奥の真っ白な綺麗な歯、視線は上に上がり彼女の顔全体を見た。
顔が先か、それとも“エクレア”のヒントが先か、全身が熱くなった。
「あれっ! もしかして? そうだよねぇ?!」
彼女から恥ずかしそうな表情の“はい”をもらった時は、なんか衝撃だった気がする。

懐かしさだったのかなぁ。
それとも雰囲気は残しながらも、大きく変わっていた彼女の風貌だろうか・・・
今も素敵な笑顔だったし、そう、あの頃より少しだけ長いだけの、今も短い髪。
なのに、少しいやらしい言葉しか持ち合わせないが、“いい女”が仄かに漂って・・・
少し眩しかった。
あの頃にも私は彼女にとって友だちのお父さんだし、おじさんだったわけだ。
今はその“中年”もより深くなり、若くハリのある刺激的であろう毎日を送る彼女に、
もう日常生活の繰り返しで染みついたみすぼらしい中年サラリーマンはどう見えるのか、
何故か少し恥ずかしくもあった。
やっぱり下心も内在していたのだろうか。
その時は挨拶程度で、取引先への手土産を買って帰っただけだった。
その後に2回、その取引先に行く度に立ち寄っただけ。
そして4回目となるのか、駅で会った。
彼女はバイトを終え、私は取引先からの帰り、その日は鉄道がトラブルで止まっていて、
駅に足止めされたまま2時間、体が冷え切ってしまい二人で店に入った。
それがきっかけだったと思う。

“エクレア”が結び付けてくれた恋かもしれない。
私は甘いもの全般、もちろん洋菓子の類もほとんど好んで食べることはない。
その事は家族や友人・同僚は認識していて、皆気づかってくれる。
そんな私が唯一食べるのがエクレアで、我が家ではケーキ類=エクレアになっている。
きっと彼女はその理由を含め、それを知っていたのだと思う。
確かにあの頃も、彼女が家に来る度にエクレアが出されていたのかもしれない。
または娘が余計な事を言ったのか・・・

魅力的な女性は甘いものなのかもしれない。
だからきっと、私はそんなに興味がなく、甘みが強くない妻とやって来たし、
つい最近まで、この大きな想いを抱えるまで浮気などには興味も関心も無かった。
彼女はエクレアなのかもしれない。
昔の記憶でも、彼女は“素敵な女の子”だった。
娘や家族に寄り添ってくれた感謝は勿論の事、人として魅力のある人で。
最近になって再会して、改めて感じた彼女の普遍的魅力。それは人としての魅力であり、
穢れ乾いた生活の中に身を置く時間が長くなった者にとって、
本当に輝かしく眩しい何かを感じさせる。
余計な事は言わないし、健康的でありながらむしろ控えめなところが多く、
初々しいのに包み込むような愛を持った、
時々どちらが年上なのか分からなくなる大きさを感じさせる事がある。
乾いた心を潤し、傷んだ心を修復するクリームも、ただ黙って塗ってくれる。
もう体の関係も両手の指の数に届こうとする回数になるはず。
しかし未だに、彼女は私を呼んでくれない。とても気遣うし照れが消える事もない。
最初に再会した直後、確かに“お父さん(娘の)”と呼んでいた気がするが、
そう、体の関係が始まってからはまったく“呼び名”がないまま。
恥ずかしそうに視線を合わせてくれるが、丁寧で優しい言葉ながら、目的の言葉だけ。


私が彼女を抱きしめるといつも、体を小さくして、そして小さい声で、
“し・あ・わ・せです”と見つめて言ってくれる。
笑顔の多い彼女も、その時には少し心細いような表情で言う。
二人はホテルに向かい、もちろんセックスをしている。確かにその目的。
彼女の体を愛しているし、その体と深く交わる事はとても幸せだ。
しかし、あの小さく細くなった彼女を抱きしめ、そして彼女が言葉をくれる時、
その時こそが最高の至福の時なのだと思う。
抱きしめるだけの時もあった。また、何時間も抱きしめたままの時もあった。

本当に大切だから抱く。本当に大切だから抱かない。
どちらもありなのだろうが、それはどちらでもいい。
もし“抱けない”としても傍にいたいし、それも許されないのなら、それでも想うだろう。
いい大人が親子ほど年の離れた女性と男女関係にある事、言い訳のしようもない。
いやらしく・責任感がなく、その場の快楽主義でしかない。
それでもどうにもならない。そんな愛がある。
自分の全てがそこにあるような、きっと自分の存在がこの為にあると疑わないような・・・
年齢を重ねた大人が一途になってしまうと格好悪く、また惨めにも思う。
だけど、それを知っていてもそれに背中を向けさせない愛がそこにある。

この前、彼女の誕生日だった。
「何が欲しい?」と私が尋ねると、しばらく考えていた彼女。
それはずいぶん長い時間で、もう忘れた頃、
「う~ん、私の為に恥ずかしい場所、平気ですか?」と問われ、
「えっ? どこ?? どんな場所行きたいの?!」と聞き返した。
結局連れて行かれたのは・・・
百貨店のランジェリーコーナーだった。
「似合うの、選んで頂けませんか?!」
彼女は私の顔を見る事なく顔を赤め、ディスプレーの商品を選び始める。
相変わらず私の顔を見ないまま、
「どういうのが良いですか? こんな感じダメですか? もっと大人っぽいの・・・」
もちろん、彼女の後ろを付いて店内を歩く私は恥ずかしい。
けれど、いつも以上、本当に恥ずかしそうに赤めた顔のまま下着に向かっている彼女の顔、
その顔を見ていると何だか幸せにさせられた。
“恥ずかしさよりいいもの”がそこにあった。

それまで彼女はクリームやレモンカラーの下着が多かった気がする。
そこで二人して選んだのはライトブルーのレースのある上下セットだった。
やわらかく温かみのある少し幼く見えた下着より、ほんの少しだけの背伸び。
普通なら大人っぽくなどないかもしれないライトブルーの下着も、
それまでの彼女とは違う。きっと私以上に彼女には大きな差なのだと思う。
なんか、そんな覚悟を私に委ねてくれた様で、それはとても嬉しかった。


眩しい。とても似合っているよ!  とても綺麗だ。
そんなに早く歩こうとなんかしないで欲しい。ゆっくり、そして君であって欲しい。
今日こうしていること、それがとても幸せで、それが続くといい。
続くといい。




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