「番(つがい)」
今年も同じ季節がやって来た。
君と出逢ったこの季節が。時々僕の顔を見てくれる君が愛おしい。
ちょうど2年前の5月だった。
4月に大学に入学した僕がやっと大学生活に慣れて来た頃で、
やっと出来た友人(すぐに彼女となった)女の子に誘われサークルに入った・・・
ボランティア活動なんかに全く興味などなかった僕が、誘われて行った現場。
僕は仲間たち、特にすぐに恋人になる彼女の事ばかり見ていたその季節。
初めて障害者に接し何も出来なかった僕。
逆に、障害者として新人のボランティアを面倒見てくれていた女性・・・
僕が僕を誘った彼女との短かった恋愛を終わらせた後も、その場所で包んでくれた。
大きな時間を費やしてやっと、僕は一人の人間としてその役割を理解出来た。
僕を導いてくれた人・・・
未来(ミク)ちゃん。
僕の2才年上で、本当にパワフルでしっかりした女性だ。
同じ世代のボランティアたちを正しい方向に導いてくれる人。
時に厳しい事を言うけれど、悩んでいる時・苦しい時にちゃんと助けをくれる。
普通でいる弱い人間を支える、“弱者”でありながら強い人だ。
僕にとってお姉さんの様な、時にお母さんかもしれない存在。
何かミスする事があっても、未来ちゃんが微笑んでくれれば不安は消えて行く。
未来ちゃんは高校時代にあった交通事故から車イス生活になった人だった。
それまではバスケ部だったらしく、本当に元気な人だ。
スポーツが苦手な僕よりもぜんぜん元気。
僕が短かった恋愛の事も忘れかけた頃、いつしか自然に視線は未来ちゃんにあった。
“大好きなお姉さん的存在”
きっとそんな感じだったけど。
未来ちゃんの笑顔が大好きだ。
大学で出会う人も自分の生活の周辺にいる人々も、笑顔はどこにでもある。
しかし未来ちゃんの笑顔は何かを伴わない、何と言うか純粋な笑顔なのだ。
きっと僕の勝手な思い込みかもしれないが、僕にはそう見える。
秋から冬に変わった頃には、未来ちゃんは僕の視線に気が付いていたと思う・・・
「見てないでこっち手伝ってよ!」と笑う事が多くなったから。
それほどに未来ちゃんの傍にいた。いつでも。
未来ちゃんは美人だと思う。
ちょっと“昔の美人”な感じで、今風に言うと“昭和の匂いがするタイプ”の美人。
だから余計に安心できるのかもしれない。
髪を下していても・束ねていても、いつだって昭和な感じがする。
その事を本人に言うと怒る。その怒った未来ちゃんも大好きなのだが・・・
僕はいつでも未来ちゃんの傍にいたし、未来ちゃんもそれが普通になった頃、
二人きりの作業中にどちらからともなく“好きな人”の話になった。
僕が先に未来ちゃんの好きな人の話を聴くと未来ちゃんは、
「私はねぇ・・・」と笑いながら話を濁した。逆に僕に対しては、
「大学って美人が多いんでしょ?! 今時女子はスタイルも良いしね・・・」
そう言って僕を睨んで見せた。
僕は正直に言った。
「未来ちゃんの事が好きだ」と。
彼女は微笑みながらも少し寂しい顔をして、
「私が年下で・・・ 普通の体だったらねぇ・・・」と自分の足元を見ていた。
僕は少し怒った口調になってしまって、
「どうして?! 年上ってダメなの? 車イスだとダメなの??」、そう聴いた。
彼女は少し間を空けて、
「私も自分があなたの立場だったらそうかな・・・ でも実際は違うんだよねぇ・・・」
そう言って僕の顔を見た。
僕は彼女の車イスに近づき彼女の体に触れようとした、キスする為に。
しかし彼女はそれに気が付いた様で体をかわした。
「ダメだよ。大学には普通の女の子が沢山いるでしょ?! 私じゃダメだよ」
少し瞳を潤ませながら彼女は言った。
そんな初めて見る彼女の表情を見たなら尚更、僕は彼女の肩を強引に押さえた。
「好きだって! 僕が好きになっちゃいけないの?! ダメなの?」
そんな言葉をぶつけると、彼女は突然顔を崩して泣き始めた。
僕は少し驚いたけど、彼女を抱きしめた。
今まではいつも包まれる様な愛を感じていたのに、初めて自分が愛を放出する気がする。
彼女の髪を触り、僕の肩に彼女を包んだ。
彼女が初めて細く弱い自分を僕に見せてくれた瞬間だった。
それでも、お互いの気持ちを確かめ合っても、まだ普通に“交際”とは行かない。
もちろん現場で一緒の時の距離も縮まったし、電話やメールもする様になった。
でも、なかなかデートとはならなかった。
僕の勇気が足りない。また、彼女のブレーキも強かった。
もう次の年の春が目の前に来た頃、やっと初デートが出来た。
彼女が車イスという事もあり、人の少ない公園デートだった。
みんなといる時とは別人の彼女。大人しくて気遣いで・・・
“僕が傍にいると彼女を小さくしてしまう”
僕はそんな気持ちにもなったぐらいだった。
でも僕は、彼女が小さく見える時ほど背伸びをした。
年下の健常者に気遣いする彼女に強引なキスもした。
そんなデートを数回した。
僕は彼女を“かわいい”と思う様になっていたし、
彼女は僕を一人の男性として認めてくれた。年下扱いはなくなったと思う。
家の人間が留守の時に、僕は彼女を僕の部屋に連れて来た。
彼女は最後まで返事を濁したが、僕は半ば強引に誘った。
後になって思えば、彼女には色々な気遣いがあったのかもしれないが・・・
僕が彼女を僕のベッドに座らせ、ただ楽しい会話だけしていたら突然、
「えっと・・・ 私で良ければ・・・ 何て言うか・・・ 触っていいよ」
彼女は真っ赤な顔をして僕に言ってくれた。
僕は、「えっ?! 別にそんなんじゃ・・・」と返したが彼女は、
「普通のカップルならそうなってるでしょ?! 私の体じゃ気持ち悪いかっ・・・」
彼女はそう言った。
僕は怒ってしまった、
「いい加減にしろよ! 僕は未来が大好きなんだよ。そんな事ぐらい分かれ!!」
彼女は静かに「ごめん・・・」とだけ言った。
「ねぇ、私に何が出来るの? どうしたらいいかなぁ?」
彼女は僕に聞いてきた。
僕は彼女の隣に座った。
「こうして近くにいられる事が幸せなんだけど、ダメかなぁ?」
「未来を見ている事が幸せなんだけどダメかなぁ??」と彼女にキスした。
彼女は僕のベッドの上で本当に小さくなっていた。
普通の人には考えられない程、彼女にはこの部屋に来る事は大きな事だったのだろう。
「私じゃダメかなっ・・・」、彼女はそう言いながら僕の手を自分の胸にあてた。
僕は彼女の胸を掴んだ。やわらかい胸を。
彼女は着ていたセーターを脱いだ。そしてシャツのボタンを外しながら、
「こんな事なら素敵な下着をつけておくべきだったなぁ・・・」と微笑んだ。
ピンクのブラジャーが見えた。そしてきれいな胸。
僕は彼女の手を止めた。
でも彼女は優しく僕を手を押さえ、シャツを脱ぎ、そしてブラを外した。
色白の優しい肌と淡い色の柔らかそうな胸がそこにあった。
僕は抱きしめた。そして自分も上着を脱いだ。
彼女の胸を掴んでしまうより、彼女の肌をしっかり感じたかったから・・・
勇気を出して僕の為に脱いでくれた彼女自身を感じたかったから。
彼女の温かく柔らかい体を全身で感じた。僕は。
この人とこうしてキスしている事が幸せなのだから。
彼女はスカートも脱ごうとした。
でも僕はそれを止めた。彼女をベッドに押し倒して強く抱きしめてキスをした。
何度も何度もキスをした。
そして彼女に服を着せた。
彼女は何か申し訳なさそうにするが、それは違う。
大好きな彼女。そして本当に綺麗な体も見せてくれた。もちろん抱きたい。
だけど何かそれだけではない。説明など出来ないが、違う。
大切にしたい・・・
それも説明ではないのかもしれない。
少し時間が流れた頃には二人は両家族の公認になっていた。
僕の部屋だけでなく、彼女の部屋にも行く様になったし、
僕も彼女もお互いに“恋人”としてまわりに紹介する様になったし・・・
愛はますます深まっていたと思う。
彼女は二人きりの部屋では直接触らせてくれるし、僕をしようとする。
でも僕はそれを我慢した。どうしても、時に苦しいけど我慢した。
卒業して就職し結婚できるまで、我慢する事を心に決めていたから。
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(プラトニック 年上 大学生 ボランティア 恋愛 年下 障害)
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