2ntブログ

「塾の先生へ・・・」




“ずっと見ています。
先生の横顔が大好きです。
みんなの話を聴きながら笑って添削をしている先生が大好きです・・・“



「ああーーー!!  こんな手紙なんか渡せないよぉー!」
孝也は一時間以上座っていた勉強机を離れ、ベッドに倒れ込んだ。
屑籠には書き直した何枚もの便箋が溢れていた。


中学3年。受験を控えていると言うのに、年号も単語も入って来ない。
孝也の頭の中は“麻里”という漢字が埋め尽くしていた。
麻里・まり・マリ・MARI・・・
毬でもマリンでも、それに近い音が全て麻里に繋がるのだ。
テレビでもネットでも、その言葉には反応してしまう程。

麻里に出会ったのは半年ほど前の事だった。
その塾にはもう1年ほど通っているが、その頃には麻里はいなかった。
性格が陰湿で孝也を馬鹿にしていた前の先生が大嫌いだった孝也。
勉強はますます嫌いになるし、もう塾もやめようと思っていた。
そんな孝也の前に突然現れたのが麻里だった。
とは言っても、最初から麻里の事が好きだったわけではない。
“前の先生のおかげで”最悪だった孝也の成績。
塾に通いながらその成績という事に呆れた麻里は、孝也に沢山の課題を挙げた。
その頃の孝也の口癖は“マジかよぉ~”ばかりだった。
ただですら嫌いな勉強を人より多くやらされる・・・
孝也は蕁麻疹を出した事もあった。親まで笑っていたが。
でも、そんな孝也は少しずつ変わった。


苦渋の中に何かを見つけた時、麻里は最高の笑顔で返してくれた。
みんなが帰って行く中、一人残された孝也を待ちながら添削をしている・・・
いつしかその横顔が孝也の喜びになっていたのだ。それは知らないうちに。
いつも同じ角度・同じ位置の麻里を見ていた。
そのせいで、頭の中に出て来る麻里まで、いつでもその画だった。
授業中に穴が開くほど見ているのに。緊張しながらも話しているのに。
それでも頭の中は麻里の“その”横顔だった。


麻里への想いに気が付いた頃には勉強が嫌いとは口にしなくなっていた。
徐々に成績が上がった事に、両親も不思議がったぐらいだった。
しかし、ここに来て孝也は苦しくなっていた。
それは成績が頭打ちになっている事もあるが、それより深刻な問題があったからだ。
麻里の事が好きで仕方ないのだ。
つまり、麻里の事しか考えられない程に好きなのだ。
孝也はもう中3だ。好きなアイドルもいれば、エログラビアも気になる。
勿論オナニーもする。
学校のクラスメイトの女子も、勿論美人の先生もグラマーな先生も脱がしている。
頭の中で。
でも、どうしても、一度たりとも麻里を脱がした事はない。脱がせない。
それどころか、最近はエロへの興味すら感じなくなっていた。

麻里は痩せているし、長い黒髪、そして清潔感のある大人な女性。
確かにセックスアピールを感じるタイプではないが、それでも、
普通の美人でも、痩せていても、孝也はクラスメイトを裸にしていた。
なのに、時折大きく開いた胸元が見えたり脇が見えても、そこには行かない。
あの横顔、そして思惟と言えば微笑みながら掛けてくれる麻里の優しい声、
それで十分なのだ。それだけでいい・・・

最近ではあまりに孝也の視線がある為、麻里も時々孝也を見る様になった。
「何?」「何か分からないところある??」
目を合わせて、少し微笑みながらそう言って、また机に視線を落とす。
孝也はただ“見ているだけ”という幸せな時間まで脅かされ始めた。
それもあって、もう気持ちがどうにもならない苦しさの中をさ迷っていた。
親が外出している時など、布団を被り枕に向かい、
「麻里先生が好きだーーー!! 大好きだぁ!!!」
そう叫んだりもしていた。
その想いは深刻で、とうとう成績が下がり始めた。
両親は孝也の深刻な顔を、勉強のせいだと思っていて、むしろ、
“勉強はそこそこで良いんだよ”とまで言ってくれていた。


しかし、麻里先生に学校でのテスト結果を報告する時が来ていた・・・
「あれっ、テスト結果出てるよねぇ? どうだった??」
孝也は“ついに来たかぁ・・・”と落胆し、席も立てなかった。
その表情に気付いた麻里は、
「悪かったかぁ・・・  でもしょうがないね。また頑張ろうよ!」
そう優しい笑顔で声を掛けた。
しかし・・・
孝也は何も言わずに教室を飛び出して行った。
それは涙を溜めたところを見られたくなかったからなのだが・・・

心配した麻里は家に電話したようで、家の人間に聞いて孝也の携帯に電話を掛けて来た。
「どうした?  ごめんね。何か私、悪い事言っちゃったのかなぁ・・・」
「孝也君のせいじゃないよ。ちゃんと勉強頑張ってるんだから」
「私のチカラがまだまだ足りないんだよぉ。ごめんね」
孝也は麻里の優しい声で涙を流していたが、それは電話で助かった。
「別に違うよ。今回は余計なこと考えてて、ちょっと調子が出なかっただけ・・・」
「もうすぐ家つくから、もう切るよ」
そう言って、麻里からの電話を一方的に切った。
本当は心配してくれている麻里に対し、こんな切り方などいけないと思っていた。
しかし、もう声も震えていたので、どうしてもそれに気付かれたくなかった。
孝也は自分が心配を掛けてしまった先生の為と思い、勉強を頑張った。
成績は回復したし、少しお釣りも来た。
高校も当初の志望校より2ランク上に見事に合格した。
しかし、それは麻里との別れの時が来た事でもあった。


もういち早く志望校合格を決めた孝也は、塾の授業に出る必要も無かった。
後は顔出しか報告程度の事だ。
だからこそ、今、一番真剣に机に向かっていたのだ。
自分を遥か上の志望校に送り込んでくれた麻里先生。最高の横顔の麻里先生。
でも、手紙を届ける事は出来なかった・・・





最後までお読み頂きありがとうございます!
この記事をお楽しみ頂けた方へのおすすめ作品は・・・


「フェロモン」
既に就職の内定ももらっている大学4年の女子大生。
しかし彼女には人知れず大変な問題があった。どうしてもそのままでは・・・

「聖女を守りたい」
この世の中には汚れた物・汚れた者が多過ぎる。
微かに咲いていた小さく清い花。今、その花は摘まれようとして・・・

「島の女」
夏休みに離島の民宿でのアルバイトに向かう大学生。
大人しい男の気持ちを揺さぶった大人の女。そしてどうにもならない気持ちは・・・







(プラトニック 先生 憧れ 純愛 スレンダー 塾 予備校)



テーマ : スイートストーリー(恋愛系作品)
ジャンル : アダルト

tag : 年上お姉さん講師憧れ片思いベストショット肖像

カテゴリ
最新記事
検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QR
リンク