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「TAKAKO  ~ デッサンモデル ~」





「脱いで。全裸でそのテーブルの上ね。 綺麗に描いてあげるから・・・」


孝子は男たちの前で立ち尽くしていた。
この大学で油絵の指導にあたっている准教授・島田孝子。48歳。
若い頃から数多くの入選作品を送り出し、そしていつしか指導者の道へと進んだ。
指導者としての能力も高く、このジャンルでは有名な作家をもう数人輩出している。
回り道をして今の仕事に辿り着いたと言うのに、もう教授の景色も目の前に見える位置。
厳しい人。作品への意識は勿論、“人間としてどうあるべきか”までも評価する人物。
風景・物・人の中にも、“受け手がその中身をも感じる作品でなければいけない”
彼女が常々口癖の様に言っている言葉だ。
彼女はバツ1だ。とは言っても若かりし頃にフィーリングに任せ結婚。
子供を授かる事なく2年でその結婚生活に終止符を打った。
相手も絵描きで、同じ油絵の道でライバルの存在だったような男性だった。
彼は作家の道に拘り自由な環境を求めて海外をも飛び回っている。
孝子は30代になって学問としての油絵を考え始める様になり、そして指導者となった。
20代の作家だった頃の孝子は破天荒で、その頃の孝子は今とは別人のようだった。
枠に囚われない自由な作風は勿論、本人自身も奇抜だった。
長い髪に大きなパーマをかけ、そのカラーリングも独特。衣装も勿論個性的。
そして今も検索すればその画像が出て来るが、奇抜な水着姿すら躊躇いがなかった時代。

今・・・
きっとそのイメージの後に今の孝子に会ったなら、絶対に別人にしか思えないだろう。
抑えたメイクに抑えたカラーの髪は後ろで束ね、濃紺のスーツが彼女の戦闘服。
縁の少ないメガネをかけ、細く見える彼女が廊下の端を歩けばオーラも感じない。
あの刺激的な作品を書き、社会を相手にするようなファッションだったあの頃、
悩殺ビキニを平気で撮らしていたあの頃の彼女はどこに仕舞い込んだのか・・・
厳しい准教授、若く彼女に興味を持たない生徒たちには煩いオバサンぐらいに映るのか?
しかし彼女に興味を持ち、そのメガネやスーツの奥にまで彼女に目を向けたなら、
年齢なりにシワを増やし、首元のシミやホクロを見せていたとしてももっと違うはず。
若い頃でさえ誰もが振り返る様な美人タイプではなかった。
派手なインパクトあるファッションや、誰もが目を引く面積の少ない水着が先行してた。
でも、ややふっくらしていた若い頃の未完成だった時代の顔も可愛かったが、今、
顔からは無駄な肉が落とされ全体にシャープになり、目が大きくなり鼻が尖った。
ややグラマーの類にいた彼女は今、ややスレンダーの部類になっている。
そしてそれは年齢の進行を外見的には自然に遅らせている良いケースだ。


彼女は正式に担当している学生の他に、特別指導として5人の学生の面倒を見ている。
“特別育成枠”とでも言うか、彼女が一番力を入れている仕事でもある。
男子3名・女子2名の5名を毎日講義終わりに専用部屋を押さえて指導していた。
中でも女子の一人は入選を繰り返している注目株で、大学をあげて期待されている子。
大学としても勿論、このグループ自体が直接取材を受ける程に注目されている。
そんな中、孝子は火種を抱えてしまった。
メンバーの中で一番大人しい男性。彼が自殺未遂を起こしてしまったのだ。
その事件は内々で収められ、マスコミどころか大学関係者にも知らされていない。
しかし、その学生と仲の良かった男子学生の二人は彼の部屋を訪れていたので、
自殺未遂した男子生徒が複数のうち孝子宛に残した遺書を直接見てしまった。
そこにはその男子学生の孝子への思いが脈々と綴られていた・・・

優し過ぎ、そして少し不器用なその学生を孝子は熱心に指導していた。
とても厳しく時に優しく、孝子は彼を成長させる為に懸命だったのだが。
しかし、思う様に成長出来ない彼自身が深い淵に落ち込み、皮肉にも、
彼以外の生徒が皆、とても素晴らしい評価を得る様になっていた。
そしてもう一つ、彼が抱えきれなくなってしまったのは孝子への愛だった。
彼は早い時期に母親を無くしており、多忙な会社役員の父親と年の離れた妹と育った。
そばにいて欲しかった時期に母親を亡くし、忙しい父親も家にはいない。
泣くじゃくる幼い妹を面倒見るので精一杯、それが当然な生活の中で生きて来た。
大学で自分の目の前に立った母親の様な年齢の女性はとても厳しかった。
でも、その厳しさまでもが得られなかった母親の愛情に置き換えられ、
偶に見せてくれる優しい表情は母親の懐に包まれる様な優しさと感じ、特別な景色だった。
孝子に母親を見て、時に大切な時に助けてくれる年の離れたお姉さんにも・・・
包まれて安心をくれる愛情、そしてやがて、近くにいて温もりを感じる愛情に変えていた。
それは彼の身勝手かもしれないが、彼は幼い頃に大切な柱を作れなかったから。
ある程度の時間が過ぎ、孝子は彼が自分に向けている視線に特別な物を感じていたが、
子供を授かる事が無かった孝子にはどこか嬉しかったし、彼の真面目さが好きだった孝子。
しかし彼の愛情が際立ち始めた時、孝子は“このままではいけない”と心に決めた。
問題はそれがワンテンポ遅れてしまった事にあり、孝子の反応が過剰反応になった事。
自分への強い愛情に一瞬自分を失ってしまった瞬間、取るべき行動が遅れてしまった。
彼の激しい愛情は周りにも見える。それにも反応してしまった孝子は、
必要以上に彼に厳しく煩く、そして逆に周りからも非情に思われる様な言動を多くした。

彼は今、意識の無いまま病院のベッドにいる。
彼の家族は彼の一方的な行動である事や大学・世間への目を気にして孝子を責めなかった。
グループの女性二人も、片やコンクールの準備で大切な時期であり、片や、
自分の進路変更を考えて大切な時期を過ごしていた。
今、一番孝子に厳しい目を向けているのはベッドにいる学生の遺書を目にした男子二人。
この事件の前から、“少し厳し過ぎるんじゃないですか?!”と繰り返していた二人。
孝子はいつも同じ返事をしていた、
「あなたたちはいいの。それより自分のやるべき事をやりなさい!」
それを繰り返すだけだった。そして事件が起きたのだから・・・
彼らが納得しないのも無理はない。
孝子があんな態度で接していなければ、“あいつは今、ベッドの上になどいない”
そう考えている。


女子の2名があの事件と前後して部屋にやって来なくなった後も彼らは来ていた。
口数は少ないながらも、その目は厳しく、孝子には敵意ある言葉が節々に感じられた。
それでも孝子は逃げなかった。そこには自身への反省の念、そして信念も。
彼らも黙々と遅れていた作品を仕上げていた。5人から2人になりながら。
そして数ヶ月かけて制作された作品をそれぞれ素晴らしい作品に完成させた。
「終わったね。すごく良い作品だと思う。よく頑張ったね!」
孝子は彼らを労い褒め称えた。そして続けた、
「みんなそれぞれが違う道に進むと思うの。もうこの場所の役割は終わったと思う・・・」
「今回の作品の完成をもってこの場所は終わりにする・・・」
孝子はそう言いながら自分の席に戻った。
すると・・・

「終わるんですか? あいつ、まだベッドの上にいるのに終わるんですか?!」
「このまま終わるなんて、それで許されると思ってるんですか?!」
彼らの顔色が変わった。
「えっ、どう言うこと?  もう二人しかいないのよ」と孝子が反応すると、
「入選を繰り返す彼女がいないし、自分に厳しい目を向ける俺たちだけになったから?」
「厄介な出来事から早く逃げたいんですか?」
彼らの問いかけに、そして孝子には非情に感じられたその問いかけに、
孝子は少し感情的に反応してしまった・・・
「少し言葉が過ぎる! 私、そんな解釈で物事を考えてない。ふざけないで!」
孝子のその反応に片方の男子が席を立って言った、
「“ふざけないで!”?!  もう一度言ってみろ! ベッドのあいつに聞こえる様に!」
孝子は言葉を失った。
そしてもう一人の座ったままの男子は冷静に孝子に向けて言う・・・
「あなたにも俺たちにも、まだあいつの為にやる事があるんだ。あいつの為に」
「あなたはそれを断る事が出来ない。あいつの遺書に目を通した俺たちだって・・・」

孝子には分からない。
“彼の残した遺書”とは何の事(どの部分の事)なのか・・・
孝子を好きになった事、その気持ちに苦しんでいる事、色々書かれていた。
その中の何を彼らが言っているのか、孝子の頭の中は漠然として見えない。
“俺たちだって”
孝子には自分に愛情を向けた彼との事がどう彼らに関係するのかが分からない。
何か頭の中に見つけようとする孝子を追い立てる様に彼らは言う、
「何の事か分かりませんか?  俺たちはこの場所、そして描く事を終えられない。
だって、あいつがどうしても書きたかった作品、それは俺たちにしか作れない。
そしてあなたもそれに協力する事を拒否する事は出来ない。言えないはずだ!」
(言葉も出ないまま二人を孝子は見つめていた)
「分かりませんか。俺たちは今日から新しい作品の制作をスタートします。
俺たちは自分の全ての能力を使って、あいつに届けるだけの作品を創り上げます」
彼らはそう言ってテーブルと椅子をいつものデッサンの配置に整えた。
孝子は見つからず、探る様に彼らに言葉を発した。
「(私に関係する事って)どんなテーマで描くの?  彼が望む作品って・・・」
言葉の最後の方は声が小さくなり、本当に微かに届く程度になった。

「俺らに出来る事は描くこと。あなたに出来る事は何ですか?  彼の為に」
「あなたは本当にあの文章を受け止めたんですか?!」
孝子は言葉の出ない自分がまるで愚かな人間であるかの様な位置に立たされ、
教え子を相手に、恥ずかしさの伴った嫌な圧迫感に支配されていた。
そして苛立ち、不意に言葉を漏らす・・・
「どうしろって言うの?  何をすれば良いのよ!」
画材を用意していた彼らは顔を上げて同時に孝子を睨んだ。そして、
「逆切れですか?  最低だねあんた。あいつが可哀想だよ。こんな女 好きになって」
「あの手紙、そして自分があいつの為に出来る事。それも分からないのか!」
孝子はもう真っ赤になっていた。そして泣く一歩手前のような顔になっていた。
“はぁ・・・“
溜息をついてうな垂れ、もう全て投げ出した様に顔を押えて蹲った。
「もう一度だけ聴く。あんた、本当に自分に何が出来るのかが分からないのか?!」
近づいた一人が孝子の耳元に静かに言った。
孝子はうつむいて顔を押えたまま、小さく静かに頷いた。

「奴に届けてやるんだ。あんたのデッサンを。
あいつがどうしても描きたいと言ったデッサン。読んだだろ? ヌードと書いていた。
“先生嫌がるだろうけど・・・”なんて遠慮がちに書いてたけど・・・
あいつが描きたかったあんたのヌード。俺たちが全てを出し切って描く。
最高の作品にしてあいつに届けるんだ。ずっと気持ちを押し殺して壊れたあいつに届ける」
・・・
孝子は内容を思い出し、その一節を忘れていた事を恥じ、同時に・・・
自分が何を求められているのかにも気付いた瞬間だった。
「嫌っ・・・」
孝子はこぼした。無意識に出してしまった声なのだが・・・
「お前ふざけんなっ!!  あいつを苦しめて冷たい扱いして・・・
もう絶対に許せない。こんな卑怯な女を好きになって苦しんだあいつが可哀想過ぎる」
彼らに反応されて初めて、孝子は自分が不意にこぼした言葉の重さに気が付いた。
「ごめんなさい。ごめんなさい、そんなつもりじゃ・・・」
48歳の准教授には似合わない“半べそ”な状態。
勇ましかった20代の彼女も指導者の道を猛進した十数年も、もうここにない。
「脱ぎなよ。そのテーブルの上に座るんだ!」


言葉を無くし動きの無い彼女に近寄り、ゆっくりと彼女のジャケットを脱がす。
静かにとは言え、脱がされても彼女に抵抗はない。
無地だが光沢のあるブラウスは細身の彼女を知的に見せている。

「脱いで。全裸でそのテーブルの上ね。 綺麗に描いてあげるから・・・」
彼女は動かない。
「あいつも俺たちと一緒にここで待ってるんだ。しっかり応えなよ!」
孝子は鳴き声と共に体を動かした。
ゆっくり立ち上がりブラウスの襟元のリボンを外した。
俺らは続けた、
「しっかりあいつに気持ちを見せて欲しい。ちゃんと応えて欲しい」
その言葉は孝子なりに受け止められたのか、表情は静かになった。
パンプスを脱いでテーブル横に置き、そして濃紺のスカートを脱いだ。
光沢のあるブラウスと茶系のパンスト姿で近くの椅子にスカートを掛けた。

そしてゆっくりではあるが躊躇いの時間を作らず、ブラウスのボタンを外す。
細く綺麗な指で一つずつ外されて・・・
彼らに対して横向き(外側)に向かってブラウスを広げた。
ベージュのブラジャーが露わになり、そして彼女がスレンダーである事もわかる。
彼らも美術の道を進む者。淡々とデッサンの支度を進める。
パンストを脱いだ。きれいに折りたたみスカートの横に置いた。
背中に手を回しブラジャーのホックが外れた瞬間、彼女は再び涙声を上げて啜った。
ブラジャーを二つ折りにしてたたみ、それをスカートの上へ。
片腕で胸元を押えて彼女はテーブルに向かおうとした。
「ヌードのデッサンですよ。あなたが一番分かってるでしょ?! 被写体なんですよ」
そう言われ、孝子はゆっくりと戻ってベージュのパンティも下した。
胸、そして陰部を腕と手で隠しながらテーブルに載った。
「外してください。ポーズはあなたに任せます。彼を想ってあげて下さいね」
“外してください”は言うまでもなく、孝子が一番分かっている。
美術学生の言葉、素直に従って腕を下し、陰部を押えていた手も無くした。


美形でスレンダー、若く見えると言っても孝子は48歳。
けっして張った肌ではないし、小さな胸も含めて少し痛々しく見える。
それに普通のヌードモデルは早い時期にバスローブを巻くか当日は下着を着けない。
つまり今、テーブルの上で裸でいる孝子の様にしっかりした下着の跡はありえない。
それは何とも艶めかしいとも言える。
ヌードになる事などまったく予定されていなかった女性、それも指導者。
その彼女が見せる事を予想しなかった下着を見せ、外し、
その下着の跡を残したまま、デッサンのモデルとしてテーブルの上にいる・・・
20代に大胆な水着など何の躊躇いもなく着ていた孝子。
今、男子学生の前でこんなにも小さく裸になっている。
写真を撮られた。別に被写体を同時に撮影する事は珍しくない。
しかし、学生たちが作成を試みるキャンバスからの構図だけでなく、
あきらかに顔のアップやパーツのアップが何枚も何枚も撮られる。
いや、これも珍しい事ではないが、唯一、その被写体が特別なだけ。
さすがに孝子も連続するフラッシュの波に、再び溺れそうになっていた。
心は大きく揺さぶられ、少しでも“芸術”という柱に安定感を見出した矢先だった。
パーツを撮られると言うこと、こんなにも恥ずかしいと・・・


毎日続けられた。
孝子は自分の定めだと覚悟し、素直に彼らに従っていた。
彼らもまた真剣だった。ベッドにいる彼に向けて、そして自身の全ての才能をそこに。
孝子は真剣な彼らに向かい合い、下着を着けない事や、選び方で協力した。
孝子自身、描かれる程にモデルになっていった。モデルに。
2週間。孝子は自分の全てを彼らに提供した。
彼らがどんなに近づいても躊躇うことなく自分を見せた。全て晒して・・・
既に若くない自分の体・肌を見られ晒す事には大きな覚悟と受け止めが必要。
ベッドにいる彼を想い、彼の為に真剣にデッサンに臨んでいる彼らを想い。
そして完成した。

“TAKAKO”と言う作品名すら承諾した孝子。
いくら写真ほど明確な物でないとは言え、彼らの技術力は高いし横にいれば分かる。
そしてその作品名ならば、それはあきらかに孝子が被写体という事だ。
病室ではカーテンで仕切られた中で披露された、意識のない彼の正面に。
彼ら、そしてその横にこの絵の被写体が立った。
彼が自分を壊してしまうほど好きになり愛した女性のヌードデッサン。
何より、自分がどうしても描いてみたいと綴ったそれだ。

何の反応もないまま、そのデッサンは再び布で覆われた。
カーテンが開かれ明るくなった彼の目元には光るものが流れていた。
結局、彼の意識は戻る事なく彼は消えていった・・・


“TAKAKO”は彼の部屋に掛けられた。
その孝子の覚悟は彼を大切に思った人々を許し、彼との別れに光をあてた。
彼が真剣だった様に、彼らは真剣に描いた、そして孝子は全てで応えた。
何かを終えるには尽きるしかない。それでないと始まらない。
彼らは尽きた。だから、きっと何かが始まる。





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